2023年2月27日から3月2日にかけてスペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大級の展示会「MWC Barcelona 2023」では、5Gの次の世代である「6G」に向けたデモを見ることができた。
6Gは、2030年前後の実現を目指す新たな通信システムだ。国内外の研究機関や大手通信機器ベンダー、通信事業者などが2020年前後から続々と6Gに関するホワイトペーパーを公表。早くも世界で主導権争いが進みつつある。
6Gの初期の議論では、100Gビット/秒といった超高速通信を目指すために、100GHz幅を超える帯域幅を活用できる可能性があるサブテラヘルツ波(100G~300GHz帯)に注目する団体が多かった。
ここに来て、サブテラヘルツ波を補完する6G向け周波数帯候補として、センチメートル波(7G~20GHz)への注目が集まっている。光に近い特性を持ち、物陰に入ると通信できなくなるサブテラヘルツ波に対し、センチメートル波は、現在5Gで使われるSub6帯(2.5G~6GHz帯)に近く、エリア展開と容量向上に適するからだ。
どの周波数帯が6G向けの主役になるのかによって、使われる半導体や回路の実装方法も変わる。6Gで使われる周波数帯の行方は、設備投資する通信事業者のビジネスモデルから通信機器ベンダーの競争、さらにはデバイスメーカーの開発をも左右する。
サブテラヘルツ波を補完、センチメートル波が急浮上
スウェーデンの通信機器大手Ericsson(エリクソン)はMWCの会場内に、センチメートル波に対応した6G基地局のプロトタイプを展示した。センチメートル波に当たる7GHzから15GHz帯の合計1.6GHz幅の帯域を使い、サブテラヘルツ波だけでは難しいエリアカバーが可能なシミュレーション結果などを紹介した。
エリクソン・ジャパンの鹿島毅チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)は、「ちょうど5Gにおけるミリ波とSub6帯の関係のように、6Gにおけるセンチメートル波を、サブテラヘルツ波の補完として使えるようにしていきたい。まだ6Gの標準化は始まっていないが、まずはセンチメートル波が使えることを見せて、合意形成を図っていきたい」と語る。
フィンランドの通信機器大手Nokia(ノキア)も、6G向け周波数帯としてセンチメートル波に言及する。同社モバイルネットワーク部門グローバル製品セールス担当ヴァイスプレジデントのAdrian Hazon氏は日経クロステックの取材に対し、6Gの周波数帯は既存電波の再利用を含めて低い周波数帯から高い周波数帯を重ねたウエディングケーキ型になると指摘。6G向けに加える新たな周波数帯として、7GHzから20GHzのセンチメートル波を、サブテラヘルツ波と並ぶ重要な候補帯域として挙げる。
センチメートル波を使った基地局や端末は、サブテラヘルツ波と比べて回路を開発しやすいといった利点もある。センチメートル波は、現在の5Gで容量拡大とエリア展開の主役となりつつあるSub6帯の少し上の周波数帯だ。Sub6帯と同じように通常の回路で実装できる。
一方のサブテラヘルツ波は高周波を扱うため、回路内の伝搬損失が大きく、アンテナとRF ICを一体化したチップをつくる必要がある。高周波を増幅する半導体アンプについても、既存のシリコン系の導体ではなく、リン化インジウム(InP)といった化合物半導体が新たな候補となる。未開拓な部分も多く、サブテラヘルツ波に対応したデバイスの開発には課題が残っている。
ここに来て急浮上してきたセンチメートル波は、既存回路構成で実装できるほか、サブテラヘルツ波と比べてエリア展開しやすい。6G向け周波数帯の有力候補の1つになる可能性が出てきた。