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 スペイン・バルセロナで2023年2月27日から3月2日にかけて開催されたモバイル業界最大級のイベント「MWC Barcelona 2023」。2022年のMWCに引き続き、米Amazon Web Services(AWS)や米Microsoft(マイクロソフト)といった巨大クラウド事業者が通信インフラへと進出する動きが目立った。かつては通信事業者や大手通信機器ベンダーが巨大クラウド事業者に警戒感を示すケースもあったが、今年のMWCではむしろ蜜月ぶりがうかがえた。通信インフラとクラウドサービスは今後ますます接近していきそうだ。

MWC Barcelona 2023におけるAWSの展示ブース。会場に入ってすぐのホール1の2階を陣取っていた
MWC Barcelona 2023におけるAWSの展示ブース。会場に入ってすぐのホール1の2階を陣取っていた
(写真:日経クロステック)
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コアネットワークでAWSを活用する動き

 「通信インフラ分野へのAWS活用は過去、法人顧客がAWSを利用してきた流れと似ている。最初はリスクが少ない分野から始まり、その後、どんどんクラウドサービスへと移行が進むだろう」

 AWSで通信事業者向けビジネスやエッジクラウド分野のCTO(最高技術責任者)を務めるIshwar Parulkar氏は、日経クロステックの取材に対してこのように答えた。

AWSで通信事業者向けビジネスやエッジクラウド分野のCTO(最高技術責任者)を務めるIshwar Parulkar氏
AWSで通信事業者向けビジネスやエッジクラウド分野のCTO(最高技術責任者)を務めるIshwar Parulkar氏
(写真:日経クロステック)
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 AWSはここに来て、通信インフラ分野のビジネスを急拡大している。通信事業者自らが通信設備を持つのではなく、クラウドサービス上に通信設備を構築できるようにすることで、トータルコストの削減やデジタル化の支援につなげている。

 AWSの通信インフラ分野進出の背景となっているのが、通信機器に押し寄せている仮想化やクラウド化の波だ。専用機器がほとんどだった通信機器が近年、汎用サーバー上のソフトウエアとして動作するようになってきた。そのため、クラウドサービス上でソフトウエアとして通信機器を構築することが可能になりつつある。

 「通信インフラ分野については2016年から取り組みを始めた。何年もかけてAWSを通信インフラへ適用できるようにする機能を準備してきた」とParulkar氏は語る。

 そんなAWSにとっての大きな成果の1つが、2022年に米国で新たに携帯電話事業に参入した新興企業Dish Network(DISH)の事例だ。DISHはコアネットワークなど通信インフラの多くをAWSのクラウドサービスを活用して構築した。「DISHのネットワークは既に商用動作しており、AWSを活用した通信インフラが可能になったという証明の1つになっている」とParulkar氏は強調する。

 だが通信インフラには、高い信頼性が求められる。さらにはデータの保護など各国の法規制にも従う必要がある。Parulkar氏も「確かに通信インフラ分野は規制など独特の課題があり、多くの通信事業者に受け入れられるためには時間がかかる。ただこれはAWSの金融分野の取り組みと一緒だ。金融分野でもこれまで、求められる厳しいセキュリティー要件などに取り組んできた。その結果、最近では米証券取引所のNASDAQ(ナスダック)がAWSを活用するようになっている。通信インフラ分野への課題についても我々は取り組みを進める」と語る。

 通信インフラ分野におけるAWSの活用は既に、通信事業者の法人向けビジネス支援システムや運用支援システム(BSS/OSS)など、厳しい要件が求められない分野で進んでいる。現在、多くの通信事業者が関心を寄せるのが、コアネットワークへのAWSの適用だ。DISHの他、スイスの通信事業者であるSwisscomもAWSを活用したコアネットワークの取り組みを進めている。NTTドコモも2023年2月、AWS上に構築した5Gコアネットワークと自社仮想化基盤上のコアネットワークを接続し、キャリアの信頼性要件を満たすハイブリッドクラウドの基本動作を確認したと発表した。

 通信インフラへのクラウドサービス適用の最終ゴールは、基地局などの無線アクセスネットワーク(RAN)である。無線信号のリアルタイム処理など、厳しい要件が求められる。こちらについてもAWSは、クラウドサービスと同様の操作感を実現し、企業の拠点などに設置できるサーバー「AWS Outposts」を開発している。AWS Outpostsを仮想化基地局のサーバーとして利用することで、基地局分野にもAWSの技術を適用する道筋を示している。

 Parulkar氏は「基地局分野のAWS活用はまだ始まったばかりだ。今後、さらに多くの取り組みを進める計画だ。次の2~3年で基地局分野においても、多くの通信事業者が受け入れるようになるだろう」と自信を示す。