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 全国に6万店舗以上ある調剤薬局が岐路に立たされている。デジタル技術の発達や規制緩和に伴い、患者は薬局店舗に行かずして処方薬を入手できるようになった。データの入力や管理といった薬局内業務の自動化も進み、薬剤師の働き方も変化している。さらに、少子高齢化をはじめとした社会情勢を背景に、薬局が提供するサービスも「処方薬の提供」を超えて多様化してきた。薬局に今、何が起こっているのだろうか。

薬局が直面する変化のイメージ
薬局が直面する変化のイメージ
デジタル技術や社会情勢を背景に、(1)処方薬提供のオンライン化(2)薬局内業務の効率化(3)薬局が提供するサービスの多様化、が進んでいる。(出所:日経クロステック)
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加速する処方薬提供のオンライン化

 処方薬の提供は従来、薬局の店舗に患者が足を運ぶ必要があったが、近年は患者と薬局(薬剤師)をオンラインで結び、薬の実物は配送するという方法を選択できるようになっている。日用品などで電子商取引(EC)が浸透したのとは異なり、薬局の場合はデジタル技術が発達したことだけでなく法規制が緩和された影響が大きい。

 2013年の薬事法改正以来、服薬指導は対面で実施することが義務化されていた。その後2016年に国家戦略特区で離島・へき地における遠隔服薬指導が始まり、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて2019年には時限措置として一定の条件の下でオンライン服薬指導が解禁。2021年には制度が恒久化されたという背景がある。また2023年1月には電子処方箋の運用も始まった。

 こうした法規制緩和などの制度変更によって、薬局業界におけるオンライン化の取り組みは加速し、新興企業や業界外からの参入も相次いでいる。中でも話題を呼んでいるのが2022年9月に一部メディアで報じられた、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)の日本での処方薬販売への参入である。

 報道によれば、中小薬局がアマゾンのECプラットフォームに出店し、オンライン服薬指導を経てアマゾンの配送網で処方薬を患者宅に届けるという構想のようだ。アマゾンジャパンの広報は「当社から発表したものではなく、案内できることはない」としているが、薬局業界は到来間近と捉え関連の勉強会などを盛んに開催している。

 ただし、薬局のオンライン化が進んだ結果、実店舗が不要になるというわけではなさそうだ。日用品や書籍などの実店舗に対するニーズがあるように、薬局の実店舗だからこその役割がある。実際、大手調剤薬局チェーンの日本調剤はオンライン化を進める一方、長期ビジョンの中で2030年度には1000店舗を展開する計画を示している。

オンライン服薬指導のイメージ
オンライン服薬指導のイメージ
(出所:日本調剤)
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 店舗の役割の1つとして考えられているのが「地域密着性」だ。厚生労働省が2015年に制定した「患者のための薬局ビジョン」では、薬局を地域医療のハブとして位置づけている。地域の医療機関と連携して薬物治療をサポートするだけでなく、地域住民の健康の維持・増進をサポートする役割が求められている。こうした役割を果たすためには、後述するように単なる「処方薬の提供」を超えたサービスの提供も必要になってくる。