コンビニエンスストアよりも多いとされる調剤薬局。厚生労働省の「令和3年度衛生行政報告例」によれば、全国に6万1791施設あるという。その薬局が今、淘汰の時代に突入しようとしている。その一因が、オンライン服薬指導などが広がり店舗に行かずとも処方薬が手に入るようになっていることだ。リアルな店舗としての薬局は今後、減少していくのだろうか。
現状は増加傾向も長期的には減少か
6万超という薬局の数をどう見るかについては業界内でも様々な意見がある。ある中小調剤チェーンは「(医療機関の前に並ぶ)門前薬局を見れば明らかなように、今の薬局店舗は多過ぎる」と語る。一方、ある薬局向けシステムベンダーは「薬局が十分にあるとは言えない地域もあり、日本全体の数で議論するのは適切でない」と指摘する。
このように意見は分かれるものの、薬局の店舗数は「人口減少や過疎化の進行が予測される日本において長期的には減少に転じる」という見立ては業界で共通しているようだ。では、薬局のオンライン化が、こうした社会情勢の変化に伴う薬局の淘汰に拍車をかけるのだろうか。
調剤チェーン大手の日本調剤の小柳利幸薬剤本部長が「店舗とオンラインではそれぞれ得意不得意があり、どちらに対しても患者のニーズがある」と語るように、店舗とオンラインの優劣を単純に決められるわけではない。「どちらかだけあればいいのではなく、患者の選択肢を狭めないことが重要だ」(同氏)
店舗とオンラインで異なる強み
店舗のメリットとしてまず挙がるのは、薬をもらう際の即時性だ。店舗に足を運びさえすれば、その場で薬を受け取れる。特に痛み止めなど急いで症状を改善したい場合は、窓口で薬を直接受け取れることの意義は大きい。こうした即時性を十分に発揮するには、薬局が医療機関の近くや生活圏に数多く存在している必要がある。
薬剤師の視点では、患者と対面でコミュニケーションを取れるというメリットが店舗にはある。画面越しに会話をするオンライン服薬指導に比べて、店舗での会話の方が安心感や信頼感を患者に与えやすい。また顔色やしぐさなど、会話内容以外の面からも患者の情報が得られるため、より個別化された深い関係を築けるのもメリットだ。スペースを生かして血圧測定や握力測定といった服薬指導以外の体験を提供できるのも店舗ならではである。
もちろん、オンライン薬局にもメリットがある。例えば服薬指導をオンラインで行えば、患者は店舗を訪れることなく処方薬を購入できる。薬局への移動時間や窓口での待ち時間がなくなるという手軽さに加え、感染症対策としての効果も期待できる。
服薬指導以外では、薬を渡した後に副作用が出ていないかなどをヒアリングする「服薬フォローアップ」でもオンライン化の効果がある。服薬フォローアップは2020年9月に施行された改正薬機法によって義務化された。従来は店舗にいる薬剤師が電話などで実施しているが、患者が不在で連絡がつかないケースもあり、薬剤師の負担が増加するなど課題が多かった。
スマートフォンアプリのチャットなどを活用したコミュニケーション手段が豊富なオンライン薬局では、患者との連絡が容易になる。患者からの相談をチャットで受け付けるケースも多く、患者の服薬継続にもつながる。薬局外にいる時間を含めて患者をサポートできるようになったのもオンライン化のメリットと言えるだろう。
こうしたそれぞれの強みを受け、日本調剤はカスタマーサクセスの観点から、店舗をハイタッチ、オンラインをロータッチなサービスを提供する場として捉えている。店舗では個々の患者と深く関わりパーソナライズされたサービスを提供する。一方、オンラインではアプリなどを通じて広い層にチャネルを開き、服薬指導やフォローアップを提供するという考え方だ。
そして「店舗とオンラインを組み合わせることで、かかりつけ機能がより深くなる」(日本調剤の長島雄一薬剤企画部長・マーケティング部長)。同社ではロータッチなサービスのチャネルとして自社開発したスマホアプリ「お薬手帳プラス」を活用している。同アプリは電子お薬手帳の機能を中核とし、チャットボットで薬局とつながる機能やPHR(Personal Health Record)などの健康管理機能、オンライン服薬指導が受けられる「日本調剤オンライン薬局サービス NiCOMS」への導線機能などを付加したものだ。
アプリを使うことで薬局と患者のコミュニケーション頻度が高まり、それに伴って患者の困りごとといった薬剤師がキャッチできる情報の量も多くなる。その上で店舗における対面コミュニケーションを実施すれば「(店舗だけで接する場合に比べ)薬局による患者への関与が深くなる。その結果、本当の意味でのかかりつけとして機能でき、今まで以上の価値提供につながると考えている」(長島氏)。