厚生労働省が「患者のための薬局ビジョン」を発表した2015年以降、薬局業界では「対物から対人へ」が合言葉のように使われている。薬の配架や事務処理といった作業を減らし、患者とのコミュニケーションなど薬剤師にしかできない業務に時間を割くべきだとする考え方である。デジタル技術やロボットを駆使してこうした変化を後押しする動きが広がっている。
薬の配架をロボットで自動化
薬局にある「物」といえば薬である。薬の入った箱を棚から下ろし、必要量を取り出して紙袋に入れるという調剤業務は典型的な対物業務である。「調剤業務は薬剤師が費やす時間の大半を占める作業でありながら、そこで求められる能力は薬学的な専門性よりもスピードと正確性だ」――。近畿エリアで調剤薬局チェーンを展開するメディカルユアーズ(神戸市)の渡部正之社長は、薬剤師の職能が生かしきれていない現状をこう指摘する。
同社がこうした現状を打破すべく力を入れるのが、ロボットを活用した「ロボット薬局」の運営だ。薬局では従来もロボットが活躍してきた。例えば、服用するタイミングなどに合わせて複数の薬を1つの袋にまとめて入れる「分包」作業を自動化する分包機がある。メディカルユアーズではこうした従来のロボットに加え、入庫や払い出しを自動化するピッキングロボットの導入を進めている。
現在、メディカルユアーズが運営する10店舗の薬局のうち、梅田薬局(大阪市)と水道筋薬局(神戸市)の2店舗でピッキングロボットが活躍している。具体的には、梅田薬局では日本ベクトン・ディッキンソン(東京・港)の「BD Rowa Vmaxシステム」、水道筋薬局ではイタリアGPI SpA社の「Riedl Phasys(リードル・ファシス) 」をそれぞれ導入した。
基本的な構造はどちらも同じで、直線レールの左右に棚を配置したロボット専用のスペースを薬局内に用意する。ロボットはレールに沿って前後上下に移動し、棚から薬の入った箱を取り出したり、使用後の箱を棚に戻したりする仕組みだ。薬の種類や残量は箱に貼ったバーコードで管理し、ロボットは箱の大きさに応じて適切な棚へ配架する。
こうしたピッキングロボットは、欧米の薬局では既に浸透している。ただし「海外では箱のまま患者に渡す『箱出し調剤』が主流で、日本のように錠剤の数に従ってシートを切って渡す『計数調剤』をする国は珍しい。1度開けた箱を再配架する日本では海外の技術をそのまま導入できなかった」(渡部氏)。メディカルユアーズは処方箋情報を自動的に取り込み、錠数単位で薬を管理するミドルウエアを新たに開発し、ピッキングロボットの日本での運用に成功した。
渡部氏によれば、ロボットの導入は薬剤師の作業負荷が減るだけでなく様々なメリットがあるという。例えば、人間の作業を前提としないので棚の高さなどに制限がなくなり、空間を効率的に使える。結果、同じスペースで扱える薬の量が増える。また薬をバーコードで管理するようになったため、薬の取り違えといったアクシデントが減るといった効果もある。同社の後に続いてロボットを導入する薬局は増えており、今では数十の薬局が同様のシステムを取り入れているという。