映像機器も低価格化+高性能化が進み、専門家でなくてもSNSに動画を投稿したり、ライブ配信したりするようになってきた。一般企業のビジネスの現場においても、事業のPRやセミナー、業務ノウハウの共有としてビデオマニュアルの作成など、情報伝達は文章から動画へ変わりつつある。
大量の動画需要に対応するため、ごく普通の企業でも動画制作を内製しようという動きが出てきている。ただ、ちょこっと撮影するだけならスマートフォンでもできるが、人に見せて恥ずかしくないレベルにしようとすると、スマートフォン1台ではなかなか難しいのが実情だ。
そこで今回から短期集中連載として6回に渡り、業務で「動画を活用せよ」と振られた人のために、動画制作の基本や機材選び、演出、撮影、編集といったポイントを解説していく。
「動画の射程」を把握する
ビジネスの現場での動画活用としては、だいたい以下が考えられる。
このうち上位2つ目までは、同じプロジェクトのメンバーに情報共有するだけだ。これならスマホでぱっと撮ってすぐ共有するくらいの「スピード感」の方が重要だろう。例えば、工場の現場写真を事務所で確認する、工事の状況を別のメンバーへ知らせるなどのように、撮影対象への知見が同程度の人なら動画の中で事細かに説明しなくても大体分かってくれるからだ。
一方、業務が異なる他の部署に共有したり、数年は資料として使ったり、社外に出したりする動画を作るとなると、何の動画なのかの前振りを付けたり、テロップで情報を補足したりといった、それなりにちゃんとした動画にする必要がある。
一般に映像コンテンツの制作は、以下のようなワークフローとなる。
分解すると、意外にプロセスが多いと気付くだろう。ここが1人で作って「YouTube」のような動画サイトで公開するだけの動画と、組織体の中で通用する動画の違いである。
組織の中では、実際に撮影や編集を経て具体的な形が見えてくると、担当者の周囲の人や上司が口出ししやすくなってくる。だが動画の場合は、プロセスの後半になって口出しされても、その段階ではどうにもならないことが多い。企業/組織の中で動画を仕上げていくときは、このようなプロセスに分けて各ステップごとにきちんとコンセンサスを取っておくことが重要になる。
作業の手間としては、「動画の射程」によって、どこまで手をかけるのかが変わってくる。ここでは動画の射程を、4つに分割してみる。
- 1. メンバー内で映像を共有程度
- 2. 社内向けで詳しくない人にも見せる
- 3. 外部関係者まで共有する
- 4. 世の中に広く公開する
1であれば、それほど手をかける必要はない。不要なところや失敗したところを切り取る程度で、なるべく早く共有した方がいい。2は、それほど体裁を整える必要はないものの、動画の中で説明しきれていない部分は文字情報を入れて、補足した方が喜ばれるだろう。
3になると、オープニングを入れたり音楽を入れたりする必要が出てくる。4はいきなり作るのが難しい。3まで制作してノウハウを積んだところで、4まで自社だけでもできるかどうかを検討した方がいいだろう。大手企業になると、4の段階で動画のプロを社員として雇用するなどの動きも見られるところだ。
本連載では、2以降のレベルの映像を作ることを想定している。
動画を作り始める前に
動画による説明の効果は絶大である一方で、その制作にはかなり制約が多い。例えば文章のようにゼロから作り、作った結果がすぐ完成形となるものであれば、後からでも自由に修正や書き直しができる。
一方、動画は何らかの元になる「素材」がなければ、先に進めない。素材とは、動画や写真、音声、音楽、説明に必要な原稿などだ。場合によっては素材がPowerPointのファイルのようなこともあるだろう。これらの素材は、編集で最終的に作り上げたい映像に当てはめていくのだが、編集してから「やっぱり違うな」となっても、簡単にはやり直しできない。
連載1回目となる今回は、動画制作ワークフローの各プロセスにおいて、先に知っておいた方がよいポイントをまとめた。