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 短期集中連載2回目となる今回は、撮影に関する準備として、機材の選定ポイントと、それぞれのメリット・デメリットなどを紹介する。

 撮影に必要な機材としては、カメラ、三脚、マイク、照明があるが、一番キーになるのはカメラである。ちなみにプロの場合は、何を撮影するかに応じて使用するカメラを選択する。つまり動画の完成形のイメージがなければカメラを選べないわけだが、それにはどんなカメラでどのような撮影が可能なのかを知っておく必要がある。

カメラごとの特性の違いを理解する

スマートフォン

 企業で動画制作を進めるにあたり、何の検討もなしに「まず機材を購入する」とはならないだろう。最初は簡単な動画を作ってみて、従来の文書と写真による情報伝達より効果が高いのかを測定することになる。取りあえず何か作るにあたっては、動画カメラとしてスマートフォンは必要十分であり、かつ広く普及している。

 スマートフォンのデメリットとしては、「画角の変えにくさ」がある。ここでの画角とはカメラに写る範囲と思ってもらってよい。画角が広いと近くからでもより広い範囲を写せるし、画角が狭いと対象物に近づかなくても大きく写すことができる。

 スマートフォンは、画角を無段階で変化させる光学ズーム機能がない機種がほとんどなので、画角を変えるにはカメラ位置を動かさなければならない。手持ちであればスマートフォンを持った人間が対象物から離れたり、近づいたりと移動するということである。デジタルズームは画質劣化するので、普通は使用しない。

スマートフォンでは珍しい光学ズームを備えた「Xperia 1 IV」(ソニー)
スマートフォンでは珍しい光学ズームを備えた「Xperia 1 IV」(ソニー)
(写真:ソニー)
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 またスマートフォンは機種によって色味が違うことがある。中には発熱が原因で撮影中に勝手に止まる機種も存在する。安定して長時間撮影できるかどうかは、事前にテストして調べておく必要がある。

 撮影対象によっては、かなり長時間撮影することになるだろう。例えば新人研修を半日撮影するとなると、スマートフォン1台だけではバッテリーが持たず、ストレージの空き領域も足りなくなるはずだ。スマートフォンは手軽で目立たずに撮影できるデバイスではあるが、向いていないシーンもあるということだ。

デジタルカメラ(非レンズ交換式)

 レンズが交換できないタイプのデジタルカメラ、小型軽量の「コンパクトデジカメ」や、一眼カメラとサイズが変わらない「ネオ一眼」といわれるジャンルの製品は、かなり廉価で手に入る撮影機器だ。

 高級モデルは画質を優先してズーム倍率を低く抑える傾向にあり、逆に廉価モデルのほうがズーム倍率は高かったりする。例えばどこかのホールで開催されるシンポジウムを最後列から撮影するといった、遠くの被写体を撮影するときは重宝するだろう。

動画撮影向けに設計されたコンパクトデジカメ ソニー「ZV-1」
動画撮影向けに設計されたコンパクトデジカメ ソニー「ZV-1」
(写真:小寺 信良)
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 デメリットとしては、連続30分以上の長時間撮影に対応していない製品が多いことだ。購入前にカタログやWebサイトで仕様をよく確認しておく必要がある。30分以上録画できない理由は幾つかある。例えば、以前存在していたヨーロッパへの輸出関税を避けるために30分以内に制限していたり、放熱機構の限界が30分程度であったりなどだ。

 またほとんどのコンパクト機には外部マイク入力端子がないので、しゃべりの撮影では音声を別の機器で録音する必要がある。

デジタルカメラ(レンズ交換式)

 かつてのビデオカメラに変わって2023年3月現在で動画撮影の主流になっているのが、レンズ交換式のデジタルカメラである。レンズを変えれば多くの画角で撮影できるほか、動画用のズームレンズでは電動ズームも使える。

動画撮影用として人気の高いパナソニック「LUMIX GH6」
動画撮影用として人気の高いパナソニック「LUMIX GH6」
(写真:小寺 信良)
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 プロが使うことを想定しているカメラもあり、高級機では設定が複雑になる傾向があるが、放送用カメラと違って、プロ用とコンシューマー(一般消費者)用の区別がないのが特徴だ。また外部マイク入力を備える機種がほとんどで、カメラ内蔵マイクと合わせて4チャンネル収録できる機種もある。

 多くの機種では内蔵バッテリーだけでなく、USB端子にモバイルバッテリーなどを接続することで、連続撮影時間を延ばすことができる。

 デメリットとしては、コンパクトデジカメと同様に30分以上撮影できない機種がいまだにあることや、USB端子からの電源で駆動できない(充電できるだけで給電では動かない)機種があることが挙げられる。コンパクトデジカメと同様に、動画周りの仕様をよく確認する必要がある。

 またレンズと合わせて価格的にも高価になりがちなので、組織内では取り扱いや保管に注意が必要である。

家庭用ビデオカメラ

 かつてのような勢いはない製品ジャンルではあるが、家庭用ビデオカメラはもともと動画撮影に特化した機器なので、手元にあるなら使わない手はない。ズーム倍率も高く、長時間記録も可能で、30分制限などはないのが魅力だ。デジタルカメラの内蔵マイクと比べれば収音能力も高く、外部マイク入力にも対応するモデルが多い。

運動会などではいまだ現役で使われている家庭用ビデオカメラ
運動会などではいまだ現役で使われている家庭用ビデオカメラ
(写真:小寺 信良)
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 動画撮影に対するデメリットはあまりないが、難点としてはかつて製品を出していたメーカーの多くが撤退してしまっているため、多様な新モデルの発売が望めないことである。またバッテリーなどのアクセサリーや故障時の保守部品がいつまで入手できるのかも、若干の不安がある。