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 「ここ数年でkWh当たりの急速充電器の充電コストを40%も下げることができた」

 2023年3月1日に開催された米Tesla(テスラ)の投資家向けイベント「2023 Investor Day」で「Charging」のテーマについて語るために登壇したSenior Director of Charging InfrastructureのRebecca Tinucci氏はこう誇った(図1)。急速充電器の充電コストとは、電気料金を除いて、そのインフラ償却にかかるコストを充電量総量で割ったものだ。インフラ構築コストが安いほど、また同じ急速充電器で多く充電がなされるほど、この値は小さくなる。

図1 下がり続ける急速充電器の設置コスト
図1 下がり続ける急速充電器の設置コスト
(出所:Tesla)
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 前者のインフラ構築コスト低減については、ハードウエアコストと設置コストの両面で取り組んでいるとした。まず、ハードウエアは「充電器の設計から製造までを垂直統合で(電気自動車(EV)などの)他の製品とも部品レベルで共有している」(Tinucci氏)ため、他社と比較して安価に製造できるという。Tinucci氏が示した資料では、住居用のAC充電器の場合、競合他社と比較して小売価格が北米で20%、欧州で50%安価だとした(図2)。

図2 充電器の展開コスト
図2 充電器の展開コスト
左が急速充電器のハードウエアおよび設置コスト、右が住居用のAC充電器の市販価格。競合他社と比べたもの(出所:Tesla)
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 また、設置コストについては、急速充電サイトに関し、自社で土地を確保するとともに設置も行い、その建設においても新しい方法を試みているという。その具体例としてTinucci氏は、米ニューヨーク州での取り組みを挙げた。テスラの工場で、土台に4台の高速充電器を取り付けたユニットを作り、それをそのままトラックで現地に輸送する(図3)。現地ではクレーンを使ってこれを下ろし、地面に固定するという方法を採る。この結果、設置コストを15%削減し、設置期間も数日で完了できたという。「早く設置できればその分、早く充電サービスを提供でき、コスト低減ができる」(同氏)。

図3 急速充電ユニットを輸送しているところ
図3 急速充電ユニットを輸送しているところ
4台の急速充電器を土台に工場で設置して輸送する(出所:「Tesla 2023 Investor Day」のYouTube動画をキャプチャー)
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 急速充電サイトでは、ハードウエア費用と導入の合計コストが競合他社の平均と比較してオーストラリアで35%、米カリフォルニア州で55%、ニューヨーク州で低いというデータを示した(図2の左のグラフを参照)。

 充電器1基当たりの充電量については「この数年で30%向上させることができた」(Tinucci氏)。とはいえ、単純に充電器1基当たりの充電量を増やすことを推し進めると、ユーザーの待ち時間を増やしてしまい、不満につながる可能性がある。しかし、「テスラは車両とインフラの両方のデータを把握している。このデータを使ってユーザーを全体にとって最適な充電サイトに案内できる」ことでこの問題に対処しているという。実際、利用率は前述のように30%向上したにもかかわらず、充電サイトでユーザーが待つ可能性は2%から1%に半減したという(図4)。今後の改良によってさらに改善できるとする。

図4 ユーザーとインフラにとって最適な充電場所を案内
図4 ユーザーとインフラにとって最適な充電場所を案内
アルゴリズムを最適化することで、待ち時間を減らすとともに利用率を向上させることができている(出所:Tesla)
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 Tinucci氏は「テスラは充電器1基当たりの充電量を増やし、ユーザーの待ち時間を減らすため、充電時間の短縮にも焦点を当てている」とも語った。過去数年間で充電時間が30%短くなったという(図5)。「これは車両とインフラ両方のハードウエアの改善に加えて、ソフトウエアが改善されたことによる」(同氏)という。

図5 短くなる充電時間
図5 短くなる充電時間
(出所:Tesla)
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