米Tesla(テスラ)が、電動パワートレーンのコストを大幅に低減する。レアアース(希土類)を全く使わない駆動用モーターを開発し、インバーターに搭載する炭化ケイ素(SiC)パワー半導体は従来システムから75%も減らす。低価格な電気自動車(EV)向けに用意したクルマの心臓部が見えてきた。
「次世代パワートレーンのコストを1000ドル(1ドル=135円換算で13万5000円)まで下げた。他の自動車メーカーはこの数字に近づいていないだろう」。静かな語り口ながら確かな自信をのぞかせたのは、テスラのVice Presidentでパワートレーン部門を統括するColin Campbell(コリン・キャンベル)氏である。同社が2023年3月1日に開催した投資家向けの説明会「2023 Investor Day」での一幕だ。
ここで言う電動パワートレーンは、駆動用モーターとインバーター、減速機からなる一体型ユニットのこと。いわゆる電動アクスル(eアクスル)と同義だ。
レアアース使わない永久磁石式モーター
「レアアースフリー」――。価格高騰や産出が中国に偏在する地政学的リスクを避けて、レアアースを使わない駆動用モーターの開発が加速している。例えば、日本電産は2023年秋にレアアースフリーのモーターを搭載した電動アクスルの量産を開始する予定だ。
テスラも「レアアースの需要は劇的に増加している。確保が難しいだけでなく、レアアースの採掘には環境や健康などの面でリスクを伴うので大変だ」(キャンベル氏)と問題意識を持つ。
レアアースを多く使うのは、永久磁石式の同期モーターである。テスラは「モデルS」や「モデルX」では駆動用には永久磁石を使わない誘導モーターを使っていた。その後に発売した「モデル3」や「モデルY」には、後輪側に永久磁石式同期モーター(PMSM)を採用した。
このPMSMはネオジム磁石を使う。ネオジム(Nd)をベースに、高温環境下でも保磁力(磁力を保つ力)を高めるためにジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を添加するのが一般的である。
テスラは次世代パワートレーン向けの駆動用モーターについて、「レアアースを一切使わない永久磁石式モーターを選択した」(同氏)ことを明かす。モデルYの駆動モーターでは、3つのレアアースを使っているという。モーター1個当たりの使用量が500gと多いのがNdで、10g使う2つの材料がDyとTbと推定できる。
レアアースフリーの実現手段としては誘導モーターや巻き線界磁式同期モーターなどがあるが、いずれも磁石を使わないモーターのためテスラの次世代品には該当しない。永久磁石式同期モーターでは、サマリウムコバルト磁石を使う動きもあるが、サマリウム(Sm)はレアアースである。
テスラは詳細を明かさないが、発表内容を満たす候補の1つがフェライト磁石を使う同期モーターだろう。