「あれは悪夢だった」――。米Tesla(テスラ)Vice PresidentのKarn Budhiraj(カーン・ブディラジ)氏は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う部品不足や生産の混乱をこう振り返った。
1つの部品が不足しただけで稼働停止に追い込まれる自動車の生産ライン。2030年に年産2000万台の電気自動車(EV)を生産する計画の米Tesla(テスラ)にとって、部品の安定調達は目標を達成する上で必須の条件となる。何度も悪夢を見るわけにはいかない。
テスラが2023年3月1日に開催した投資家向けイベント「2023 Investor Day」では、サプライチェーン(供給網)を担当する2人のVice Presidentが登壇した。1人がブディラジ氏で、電子部品やパワートレーン、電池関連を統括する。もう1人がRoshan Thomas(ロシャン・トーマス)氏で、車両をはじめとする商品や太陽光パネル、設備などを管理している。
サプライチェーンの簡素化――。両氏がプレゼンテーションで強調したのがこれだ。トーマス氏は「これが、年産2000万台という目標に対して、自信を持ってスケールアップできる唯一の方法だと考えている」と語った。
サプライチェーンという「完璧を求めるゲーム」(ブディラジ氏)において、プレーヤーは少ないほどミスは起こりにくい。ヒューマンエラーも無視できない。だからテスラは、少数精鋭のチームで完全自動化を目指すという方向に舵(かじ)を切った。
サプライヤーが椅子取りゲーム
テスラはプラットフォーム(PF)の刷新を機に「取引するサプライヤーを劇的に減らした」(同氏)。「モデルS」と「モデルX」に使うPF(以下、SX-PF)では1次部品メーカー(ティア1)から調達する部品は3400個で、2次部品メーカー(ティア2)からは同2万1000個だった。これを「モデル3」と「モデルY」に使うPF(以下、3Y-PF)では、ティア1から同2100個、ティア2から同1万9000個に減らした。
テスラはPFの移行を、部品点数の削減はコスト低減だけでなく、「サプライヤーの能力を見極めるフィルターとしても使った」(同氏)。SX-PFで多くのサプライヤーから部品を調達して広い網を張った。そこでサプライヤーの技術力や財政面など判断し、テスラの基準に見合わないメーカーを3Y-PFでは使わなかったという。テスラは低価格な次世代EVに向けた新PFを準備中で、「(サプライヤー数の削減を)継続的に進めていく」(同氏)方針だ。
サプライヤーが椅子取りゲームに勝ち続けるには、テスラが求める生産の自動化に対応する必要がある。