企業のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)利用が本番を迎えつつある。情報系やシステム開発基盤にとどまらず、基幹系システムにも活用が広がり始めた。背景にあるのは、外部環境の変化に柔軟に素早く対応できるシステムへのニーズの高まりだ。業務の最適解を凝縮したシステムともいえるSaaSを使うことで、最先端の機能を素早く取り込み業務や事業を効率化する。企業がSaaSを活用する上で、導入効果を最大化し落とし穴を回避するための「勘所」を探った。
「SaaSファーストが基本だ」――。日清食品ホールディングスの成田敏博執行役員・CIO(最高情報責任者)グループ情報責任者はこう語る。生産管理や営業支援、マーケティング、物流やサプライチェーン管理といった基幹業務について、新システムの導入を検討する場合は「よほどのことがない限りまずSaaSから要件に合うものを探す」(成田CIO)。
日清食品HDは2030年までの中長期成長戦略の中で「NISSIN Business Transformation(NBX)」と名付けたDX(デジタル変革)の方針を掲げる。タレントマネジメントシステムやサプライチェーン管理、データに基づく提案型営業、ペーパーレスやスマートファクトリーの実現など、内容は多岐にわたる。こうした変革を支える新システムをつくる有力な道具とみるのがSaaSだ。既製品のSaaSで基幹業務システムを構築するほか、同社が力を注ぐシステム内製化の基盤としてもSaaSを活用する。
日清食品HDはSaaSを大量に導入するだけではない。基幹系から現場の業務システムまで、業務や機能ごとに最適なSaaSや内製システムなどを必要に応じて組み合わせる。SaaSを単独で導入したり、多くの機能がパッケージとして一体になった大規模なSaaSを採用したりといった事態は原則として避ける。SaaSや内製したシステム、ERP(統合基幹業務システム)パッケージで構築した既存の基幹システムのデータなどをつなげて、全体があたかも1つのシステムのように連係動作する形にするのが、同社が目指す理想形だ。
理想のシステム構成へと変革するため、現状のシステムのアーキテクチャー見直しと移行に向けた準備に着手している。まずは現在のERPの解体だ。成田CIOは「ERPの機能を分類した上で、機能単位で見たときによりよいサービスがあれば、そのサービスをつなげて、システムの全体アーキテクチャーを構成することも視野に入れている」と話す。まずはシステム連係に向け、データの共通化に取り組み始めたという。具体的には、マスターデータなどを統一している。