最先端の機能を利用し、柔軟で俊敏なシステム開発を可能にするSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を業務に生かす企業が相次いでいる。日本航空(JAL)は効果を最大限に引き出すトップダウンの導入手順を確立。野村不動産ホールディングス(HD)は現場主体のボトムアップ導入で業務改革を進めている。先進企業の挑戦から、SaaSを活用する最適解を探る。
新システム導入のガバナンス体制を整備する日本航空
「Go Toクラウド」を掲げるJAL。同社は、アプリケーション基盤選定フローの策定や標準クラウド基盤の選定、アプリCoE(センター・オブ・エクセレンス)と呼ぶ組織を設けるなど、クラウドのメリットを享受するための基盤を固めてきた。
「(新システムの導入を検討する場合)まず考えるのがSaaS」。JALの高橋洋IT企画本部IT推進企画部生産系システム推進グループグループ長は、SaaSやPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)などのクラウド基盤選定方針について、こう語る。
JALのSaaS活用体制における最大のポイントは、製品や開発方法を選ぶ基準と手順を確立し、柔軟で俊敏なシステム開発と一定水準の品質確保を両立している点だ。2019年に、SaaSをはじめとするクラウドサービスの種類を判断する基準となる「アプリケーション基盤選定フロー」を構築した。市販・既製品の業務用SaaSを第1優先に、業務システムを独自に開発する場合の開発環境から既存システムを使い続ける場合の基盤まで、SaaSをはじめとするクラウドを前提に検討する。
具体的には新システムの導入・開発検討に関するガイドラインを作成し、業務部門が新システムの導入を検討する時点でまずIT企画本部に相談してもらうように促している。相談を受けたIT企画本部は通常、まずSaaSを導入できるか検討する。対象業務の分野や重視する特性に応じて、SaaS適用の可否を調べる。候補に挙げたSaaSについては、ベンダーにRFI(情報提供依頼書)を依頼したり、公開資料を参照したりして、コストやセキュリティー要件について調査する。検討の結果SaaSを適用できると判断した場合は、パラメーター設定などの最小限のカスタマイズで導入する。
どの業務領域にどのようなシステムを導入するかについても整理する。人事や労務、会計などの共通的な業務領域と航空事業特有の領域とにまず分類した上で、利便性と堅牢性を考慮し、SaaSの適用か、自社開発システムとすべきか判断する。「基幹系のシステムにはSaaSを適用するケースが多い」(JALの川辺晋作IT企画本部IT推進企画部空港・オペレーショングループグループ長)。セキュリティー上のリスクへの対応や安定的にシステムが動くことを重視する高い堅牢性が求められるシステムにはSaaSを適用する。
「これまで航空業界向けのパッケージソフトを提供していたベンダーが自社製品のSaaS版を提供するケースが増えている。結果、標準のシステムが浸透している」。JALの高橋グループ長は、航空業界のシステム変遷についてこう語る。各国の法律に準拠したり航空業界の共通ルールに基づいたりして運航する必要があるため、運航関連業務については、航空業界標準の業務フローが最適との判断だ。航空関連業務向けのSaaSがグローバルで充実しているという背景があり、基幹系についてはSaaSを適用する方針を採っている。全業種共通的な会計や人事などの業務にも基本的にはSaaSを適用するという考えだ。
SaaSでは不十分な場合、次はPaaSを使ったローコード/ノーコード開発を検討する。米Salesforce(セールスフォース)の「Salesforce Lightning Platform」やサイボウズの「kintone」で内製する。ローコード/ノーコードサービスを使った開発で難しければ、「AWS Lambda」などのサーバーレスサービスやIaaSを活用した自社開発を行う。マネージドサービスの活用を優先的に考慮し、それでも難しい場合は、基盤にIaaSを使う。
一連のフローの機能を高めるため、2021年8月には企業内でのクラウド活用や機能の共通化などを相談できる窓口ともなる組織「アプリCoE」を設置した。