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 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)活用先進企業の試行錯誤から、エンタープライズSaaSを業務システム開発に生かし効果を引き出す勘所が見えてきた。SaaSを活用した上でシステムの全体最適をとるにはいかなるポイントを押さえるべきか。先進企業の試行錯誤から見えた3つの勘所を見ていこう。

SaaS活用における3つのポイント
SaaS活用における3つのポイント
(取材を基に日経クロステック作成)
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データ連係が最重要、鍵は基盤とマスターデータの統一

 「データ連係が最も重要だ」――。先進企業各社は、こう口をそろえる。複数のSaaSを組み合わせて1つの業務システムのように動かすコンポーザブルなアーキテクチャーを実践するには、SaaS間などでデータを共有・処理できる必要があるからだ。

 例えば、商品や人、店舗といったマスターデータを複数のシステムで共有し、現場の使い勝手を高めると同時に一元管理が容易になる。顧客の購買データや原料の仕入れデータなど、日々更新・蓄積していくトランザクションデータについても、複数のSaaSを横断してやり取りできれば、あるSaaSから別のSaaSへと手作業でデータを移し替えるよりはるかに効率よく業務を処理したり施策立案に役立てたりできる。

 SaaSを基幹業務に取り入れる日本航空(JAL)やSaaSを組み合わせて全業務システムを構成するトリドールホールディングス(HD)は、従業員や製品など社内で共通して使うマスターデータを整理した上で、データ連係の基盤システムを構築する。2社とも、データ連係基盤はシステムの間に設ける。

 現場からSaaSを普及させる野村不動産ホールディングス(HD)も今後の施策として、データ連係を課題視する。また、これからSaaSを基幹業務システムへと組み込んでいく構想を持つ日清食品ホールディングス(HD)も同課題に目を向け、マスターデータの整理に着手する。

 「データ連係基盤がなければ、複数のSaaSを組み合わせたシステムは使えない」。トリドールHDの磯村康典執行役員CIO(最高情報責任者)兼CTO(最高技術責任者)BT本部長はこう強調する。

 SaaS間のデータ連係基盤を成す主な機能は、データ形式の変換やデータ転送を担うETL(抽出・変換・ロード)、文字や数字などの構造化データから文書ファイルや映像データなどの非構造化データまで様々なデータを格納するデータレイク、SaaS間のデータ取り出しや格納をつかさどるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の管理である。

 例えばトリドールHDはまずETLツールで各種SaaSが持つAPIを呼び出してデータを取り出し、結果をデータレイクに格納する。データレイクには未加工の生データ、整形が完了したデータ、データ分析や別のシステムでの活用などの目的で集計したデータの3種類を保存する場所を設けることが多い。同じ項目名でもシステムによっては名称が違うこともあるためデータを共有するためには整形が必要だ。整形済みデータや集計済みデータは、項目ごとにAPIを介して各種SaaSやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールとやり取りしてデータを共有するという流れだ。

 データ連係基盤の構築には、様々なシステムとの間を取り持つ仲介役のクラウドサービス「iPaaS(インテグレーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービス)」を使うケースが多い。例えばトリドールHDはマジックソフトウェア・ジャパンが販売するiPaaS製品「Magic xpi Integration Platform」を使う。選定理由について磯村CIO兼CTOは「取引履歴やデータの正確性を検証するためのモニタリング機能が充実している」とした。

 全てのデータを原則としてデータレイクに蓄積する。SaaSのデータをそのまま別のSaaSに連係する場合はEAI(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション、連係/同期/統合)ツールを用いて、SaaS間のデータを共有する。

トリドールHDのデータ連係基盤の構成
トリドールHDのデータ連係基盤の構成
(トリドールHDの資料を基に日経クロステック作成)
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 SaaS活用先進企業はデータ連係基盤を生かしてSaaS間で効果的にデータを共有し、スムーズな業務処理を可能にしている。例えばトリドールHDは財務会計や管理会計について、データ連係基盤を生かして仕訳データを自動で作成している。元となるのはPOS(販売時点情報管理)システムや請求書、経費精算など、それぞれの業務で使う複数のSaaSが生み出すデータだ。

 各SaaSからのデータをAPIを介してデータ連係基盤に集約。整形・集計した仕訳データを財務会計システムにいったん入力する。この財務会計システムもSaaSで構築・運用している。併せて経理・財務を委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)先が全ての仕訳データを照合・検証し、財務会計システムへ正しく反映して仕訳業務を完了する。