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 米Tesla(テスラ)が世界有数のVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)事業者になりつつある。VPPとは、多拠点にある多様なエネルギー資源(太陽光発電、風力発電、蓄電池、発電機など)を束ねて制御し、1つの発電所として運用管理する技術やシステムを指す(図1)。TeslaのVPPで見えてきたのは、これまで経済性度外視で導入されていた蓄電システムが、VPPでは優秀な稼ぎ手になるという点である。

図1 VPPでは別目的で導入された発電源や蓄電池を系統で統合的に連系
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図1 VPPでは別目的で導入された発電源や蓄電池を系統で統合的に連系
仮想発電所(VPP)のイメージと、それを実現するための電力系統や事業者の構成例。一般にVPPは家庭に設置した太陽光発電や蓄電池などの分散型電源をリソースアグリゲーター(RA)が集約して、充放電を制御し、電力平準化を実現する。ただ、電力事業者などがかなり大型の蓄電池システムを系統に直接連系させる場合などもVPPと呼ぶことがある。アグリゲートコーディネーター(AC)はRAが集約、制御した電力を市場に提供するための仲買人である。RAとACは1事業者が両方を兼ねることもあるし、電力会社が自ら手掛けることもあるなど、事業者の形態はさまざまだ(出所:日経クロステック)

報酬付きVPPに参加者が殺到

 2022年6月、Teslaが米国カリフォルニア州で始めた商用のVPP事業に、参加希望者が殺到した(図2)。参加資格は、Tesla製の家庭用蓄電池「Powerwall」を自宅に導入済みであること。母集団はそれほど大きくないはずだが、募集開始3カ月あまりで参加者は約5000世帯に達した注1)。2023年2月末時点では6000世帯を超えている。

注1)VPPに利用可能な「Powerwall 2」は2016年に発売された。生産が遅れたことで累計出荷数が10万台になったのは4年後の2020年5月だったが、その1年後の2021年5月には同20万台と急増。その後も年間10万台超のペースで増えているもようで、2022年6月時点では、日経クロステックの推定で30万台超に達したとみられる。ただし、同社の電気自動車(Model 3とModel Y)の2021~2022年の世界市場での出荷台数に対するカリフォルニア州の出荷台数の比は1割。この比率をPowerwall 2に適用すれば、カリフォルニア州のPowerwallの累計販売台数は推定で3万台となる。
図2 カリフォルニア州では9カ月で中規模発電所並みに
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図2 カリフォルニア州では9カ月で中規模発電所並みに
カリフォルニア州におけるTesla VPPへの参加世帯数の推移(米Lastbulb.com調べ)。2022年6月の商用サービス開始から約4カ月で5000世帯超に急増した。その後の伸びは鈍っているが、蓄電容量の合計は90MWh超に上っている。出力は約30MW、短時間であれば40MW超で、中規模の火力発電所に相当する(出所:Lastbulb.comの資料に日経クロステックが加筆)

 人気の秘密は、大きく2つ。(1)Powerwall所有者であればかなり気軽に参加できること、(2)意外に多くの報酬があること――の2つである。

 (1)では参加者として登録に必要となるのが、Powerwallの他にはスマートフォンのアプリだけでよい点だ(図3)。しかも、参加者は登録後、ほとんど何もすることはなく、(2)の報酬が“チャリンチャリン”と懐に入ってくるようになる。報酬の推定額などもアプリで見ることができるため、参加者にとってメリットが分かりやすい。

(a)稼げる金額を提示
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(b)卸電力料金が安いときに買い、高いときに売る
(b)卸電力料金が安いときに買い、高いときに売る
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(c)放電イベントをリアルタイムで通知
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図3 アプリで状況が一目で分かる
Teslaが同社のVPPで参加者に提供しているスマートフォン用アプリの画面の例。保有しているシステムから稼げる金額を提示するなど、参加者にとってのメリットが分かりやすい(a)。稼ぐ手段は周波数調整の報酬や、「アービトレーション」と呼ばれる、電力の価格が安いときに充電(買電)し、高いときに放電(売電)する取引などさまざま(b)。VPPとして何世帯が参加しているかなども分かる(c)。(写真:TeslaのWebページより)