米Teslaが自らの仮想発電所(VPP)事業で示したように、VPPへの参加者は蓄電池を優秀な稼ぎ手に変えることができる。では、このVPPであたかも湧いて出てくるように見える報酬の原資はなんだろうか。それは直接的には、VPPで“売買”する電力の価値の差額である注1)。
ただ、そのさらに大元をたどると、それは電力系統に流れる電力の出力変動を平準化する効果に行き着く。
“ダック”から“ネッシー”へ
例えば、カリフォルニア州では太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が進むにつれて、それ以外の発電出力の需要、つまり既存の電力会社にとっての実質的な電力需要がいびつなカーブを描くようになってきた(図1)。これはアヒル(Duck)の背中のシルエットにみえることから「ダックカーブ」と呼ばれる。最近は、日中の電力需要のほとんどを太陽光発電が占めるようになり、このカーブの“谷”が深くなって「ネッシーカーブ」とも呼ばれることも増えてきた。ネッシーは英国ネス湖の未確認生物である。
このダックカーブやネッシーカーブの谷が深くなることは、必要な化石燃料の総量を減らす効果があり、カーボンニュートラルを目指す立場では望ましいことだ。ところが、電力系統の安定性の維持や伝統的な電力事業者の経営という観点では評価は逆転してしまう。ダックカーブの谷が深い時間帯は、出力を低下させる、または停止させる設備が増え、設備稼働率が大きく低下してしまうからだ。設備稼働率が低下することは、その設備での発電コストが上がり、経営が難しくなることを意味する。
また、中型以上の火力発電システムは、一定以上を出力しないと発電効率が大きく下がる。しかも、完全に停止させると再稼働に時間がかかるため、停止するという選択肢は事実上ない。原子力発電設備は出力調整自体がほとんどできない。
電力系統では、電力の需要量に供給量を常に一致させなければならないが、ダックカーブの谷が深くなりすぎるとそれができなくなるのである。その場合、再生可能エネルギーを出力抑制するほかなくなる。
これへの対策としては、大容量の蓄電システムを導入することが考えられ、実際にこの2~3年で米国や欧州を中心に急速に導入が進んでいる。再生可能エネルギーの発電出力が大きい時間帯に蓄電し、少ない時間帯に放電するいわゆる“電力のタイムシフト”を行うのである。これで、火力発電システムの設備稼働率は改善する。
ところが実はこれも“うれしさは半分くらい”だ。蓄電システムが稼働、つまり充電中や放電中となっている時間は、1日全体からみると短い。つまり“設備稼働率”が低い。火力発電システムの課題を蓄電システムに押し付けただけ、ともいえるからである。蓄電システムは、充放電ロスも無視できないため、最近まで電力事業者は、蓄電システムには頼らず、ギリギリまで火力発電で平準化しようとする傾向があった注2)。