電気自動車(EV)は数十k~100kWhの大容量蓄電池を搭載している。これを“家庭用蓄電池”として使うV2H(Vehicle to Home)の市場が立ち上がり始めた。さらにこれをVPP(仮想発電所)の分散型電源として活用することで、再生可能エネルギーやEV自身の課題が解決する見通しが出てきた。将来的には、電気はEVで運んで、電力系統は不要になると考える事業者もいる。
電気自動車(EV)は以前から電力系統の平準化に大きな役割を果たすと考えられてきた。EVの蓄電池の電力を家庭で使うV2H(Vehicle to Home)、ビルで使うV2B(Vehicle to Building)、そして電力系統で使うV2G(Vehicle to Grid)といった形である。仮想発電所(VPP)が増え始めた中、実際にこれらの市場が離陸し、これまでの期待が現実のものとなりつつある。
注文に生産が追い付かない
V2Hなどは以前から利用可能だったが、1年ほど前から日本でも急速に普及し始めた。蓄電池およびV2H関連システムを販売するニチコンは、「当社のトライブリッド蓄電システムは太陽光発電、家庭用蓄電池、そしてEVの蓄電池の3電源を使えるようにするシステム。ところが2021年度までは、EVなしで利用するケースが多かった。それが2022年度になると、EVも利用する例が増えた。V2H用システムと合わせると受注が約5000システムと急増し、2023年はさらにその2倍以上になる見通しで、一部の部品の生産が追い付かない」(同社)とうれしい悲鳴を上げる(図1)。実際同社のWebでは「新規のご商談分については、製品のお届けに6カ月以上を要しております」と納期の遅れを釈明している注1)。
ニチコンによると、受注が急増した背景は大きく2つ。(1)V2H対応EVの車種の急増、(2)V2Hに対する補助金が申請しやすくなったこと、だという。(1)については、「V2Hが可能なEVが2021年度までは非常に限られていたが、2022年度になって増え始め、2023年は日本の自動車メーカーのEVのほとんどがV2H対応になった。さらに輸入車でも対応車が増えてきた」(ニチコン)ことにあるとする。中でも、日産自動車が2022年5月に発売した軽EV「サクラ」の人気ぶりが大きいという。
(2)は、「2021年度まではEVの購入時にしかV2Hの補助金を申請できなかった。2022年度になって、EVとは別にV2Hで申請できるようになった」(ニチコン)ことがある。こうした要因が合わさって、V2Hの利用者急増につながったようだ。
技術的にはVPPにも対応
パナソニックもそうした背景を察知し、機敏に動いた企業の1社だ。2023年2月に、V2Hと蓄電システムを組み合わせた「eneplat」を発売した(図2)。「受注開始の初日に結構な数の注文をいただいた」(パナソニック)という。「EVがこの1~2年でやっと普及してきた。V2Hにとっても今がちょうどいいタイミング」(同社)という。
既に発売済みの太陽光発電システムや家庭用蓄電池、HEMS(Home Energy Management System)に追加可能だが、組み合わせは自由に選べるとする。「家庭用蓄電池なし、あるいは、太陽光発電システムなしでも利用できる」(同社)。
導入効果についてパナソニックは、「太陽光発電の自家消費を最大化することで、EVへの充電を含めても電気代を6割削減できる」(同社)とする。
その制御自体、VPPの一種ともいえるが、電力系統に逆潮するVPPについては、「実証実験には参加しており、外部からの指令で蓄電池の電力を逆潮することも技術的には可能。ただし、今は家庭を対象としたVPP事業者がまだいない」(同社)という。