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異種チップを1つのパッケージにまとめる「ヘテロジニアスインテグレーション(異種チップ集積)」が、近年盛り上がりを見せている。異種チップ集積とは何か。なぜ注目が集まっているのか。どのような恩恵があるのか。10のQ&Aで明らかにする。

Q1:ヘテロジニアスインテグレーション(異種チップ集積)って何?

Q2:なぜ今、注目されているの?

Q3:昔からある技術じゃないの?

Q4:どんなアプリケーションに使われるの?

Q5:具体的にどう異種のチップを集積するの?

Q6:先進 2次元パッケージングって何?

Q7:3次元パッケージングって何?

Q8:誰が異種チップ集積パッケージを製造するの?

Q9:製造に必要な技術を提供するプレーヤーは誰?

Q10:課題はあるの?

Q1 ヘテロジニアスインテグレーション(異種チップ集積)って何?

 ヘテロジニアスインテグレーションを直訳すると「異種集積」となる。複数のチップを1つのパッケージに収める技術を指す(図1)。対の概念として、複数の機能を1チップで処理する「モノリシック」がある。半導体製品の製造では、シリコンウエハー上にトランジスタを形成する前工程と、ウエハーを切り出して土台となる基板(パッケージ基板)に接合して樹脂で封止する後工程に分かれるが、ヘテロジニアスインテグレーションは後工程の技術といえる。

 ヘテロジニアスインテグレーションに近い言葉として「チップレット」がある。IEEE(米国電気電子学会)の定義では、ヘテロジニアスインテグレーションがパッケージング技術なのに対して、チップレットはチップを分割する技術や、分割されたチップそのものを指す。

図1 さまざまな機能を持つチップを最後に集積する「異種チップ集積」
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図1 さまざまな機能を持つチップを最後に集積する「異種チップ集積」
従来のモノリシックなチップと、異種チップ集積の違いを示した。前者は1枚のウエハーから大きなチップを造るのに対し、後者は小さなチップを個別に造って最後に集積する。チップを個々の機能にとって最適なプロセスで造れるので、歩留まり、コスト、性能などの点で分がある(図:東京工業大学 特任教授の栗田洋一郎氏の資料に一部日経クロステックが加筆)

Q2 なぜ今、注目されているの?

 最先端の半導体の製造コストが上がる一方で、パッケージ当たりのトランジスタ数の要求はとどまるところを知らないためだ。

 従来、パッケージ当たりのトランジスタ数増加の役割を担ってきたのが前工程のウエハープロセスの微細化だった。ところが近年は、微細化の世代が進むごとに、コストが激増し、性能向上も鈍化するなど、微細化の恩恵が受けられにくくなってきた(図2)。一方で、コンピューターで分析しなければならないデータ量は高度な人工知能(AI)の登場などによって増大の一途をたどっており、これに応じてトランジスタ数を増やした結果、ダイサイズ(1つのチップの大きさ)が拡大する傾向にある。しかし、ダイサイズが大きいと、ウエハーの欠陥を含んでしまう確率が上がり、不良品が出やすくなる。

 その解決策として、注目が集まりだしたのがヘテロジニアスインテグレーションである。例えば、高度な演算を行う部分のみを最先端プロセスで造り、必ずしも最先端プロセスを必要としない部分は成熟したプロセスで造ることで、全体として低コスト化が見込める。1チップが小さくなるため、問題となっていた最先端チップの歩留まりも改善する上、構造によってはプロセッサーとメモリーの配線距離を短くすることもでき、消費電力を抑えられる。

図2 微細化に伴いコストが増加
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図2 微細化に伴いコストが増加
(写真:Advanced Micro Devices)

Q3 昔からある技術じゃないの?

 チップレットの概念自体は20世紀からあり、継続的に研究されてきた。そうした積み重ねの上で、2010年代ごろになってQ2で示した具体的な応用を見据えたヘテロジニアスインテグレーションが市場に出始めた。米Advanced Micro Devices(AMD)および、そのチップを製造する台湾積体電路製造(TSMC)などが先行した。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や米Intel(インテル)も製造体制を整えるなど、半導体業界全体を巻き込む一大潮流となっている。

 市場規模も右肩上がりで伸びる見通し。フランスの調査会社Yole Developpementによると、ヘテロジニアスインテグレーションを含む先進パッケージングがパッケージ市場で占める割合は、2015年に39%(約215億米ドル)、2021年に44%(約375億米ドル)、2027年には53%(約651億米ドル)まで上昇する(図3)。

 日本でファウンドリー事業に挑むRapidus(ラピダス)も、その事業構想の中で、「次世代の3次元LSI、Nano Sheet GAA技術を日米欧連携で確立」と明記するなど、ヘテロジニアスインテグレーションに取り組むことを明らかにしている。

図3 市場規模は右肩上がり
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図3 市場規模は右肩上がり
(図:Yole Developpement)

Q4 どんなアプリケーションに使われるの?

 主には高性能コンピューティング(HPC)だ。AMDのサーバー向けプロセッサー「EPYC」、英Arm(アーム)製プロセッサー搭載の富士通のスーパーコンピューター「富岳」が代表例である。

 ヘテロジニアスインテグレーションがどこまで低コスト化し、民生品に波及するかについては意見が分かれる。メガネ型や腕時計型など、身に着けるウエアラブル機器は小型化が重要であるため、使われるのではないかという見方をする専門家もいる。

Q5 具体的にどう異種のチップを集積するの?

 大ざっぱには2種類のやり方がある。1つは、チップとパッケージ基板の間にインターポーザーという、一般的なパッケージ基板より微細な配線が可能な中間基板を挟み、それを媒介にチップ同士を接続するというもの。これを先進2次元パッケージングと呼ぶ。もう1つは、チップの上にチップを接合する3次元パッケージングだ。次項以降で詳説する。