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 NTTが次世代ネットワーク構想「IOWN」の実現に向け、技術・サービスの開発を進めている。次世代構想であるものの、その構想の一部である低遅延なネットワーク「APN IOWN1.0」の提供が2023年3月に始まった。IOWN構想は多岐にわたる。今回は、Q&A方式でIOWNの全体像を見ていこう。

Q1:提供が始まったばかりのIOWNはなぜ注目されているの?

Q2:IOWNのネットワークはなぜ必要なの?

Q3:「IOWN1.0」の次に登場するサービスは「IOWN2.0」?

Q1 提供が始まったばかりのIOWNはなぜ注目されているの?

 IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)とは、光通信技術を中心とした新たな高速大容量通信、膨大な計算リソースなどを提供するネットワーク・情報処理基盤を指す。NTTがIOWN構想を2019年に公表し、既存ネットワークと比較して遅延が200分の1、伝送容量が125倍、電力効率が100倍というネットワークの実現を目指している。こうした桁違いの性能が注目を集めている。

IOWN構想で目指すネットワークの性能
IOWN構想で目指すネットワークの性能
(日経クロステックがNTTの資料を基に作製)
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 このIOWNのサービスをNTT東日本とNTT西日本が2023年3月16日から提供開始した。サービス名は「APN IOWN1.0」で、既存ネットワークと比較して遅延を約200分の1にした超低遅延なネットワークである。ただ、伝送容量や電力効率についてはIOWN構想を達成したものではない。

 NTTは当初、IOWN構想の普及時期を2030年としていたが、提供可能なサービスから市場に展開していく方針に変えていた。同社の川添雄彦副社長はAPN IOWN1.0の記者会見で、「いよいよ構想から現実へ」と胸を張った。

NTTの川添雄彦副社長
NTTの川添雄彦副社長
(写真:日経クロステック)
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 APN IOWN1.0の特徴は、100Gbpsの専用線を利用して、低遅延でゆらぎ(ジッタ)が小さいネットワークであることだ。サービスでは、遅延を測定・調整する機能を持つ端末装置「OTN Anywhere」も販売する。サービスの利用料は月額198万円(税込み、以下同じ)、端末のOTN Anywhereは1台当たり645万7000円からである。

既存ネットワークの200分の1に
既存ネットワークの200分の1に
(日経クロステックがNTTの資料を基に作製)
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 利用料は高く、現時点で個人が利用できるようなサービスではない。ただNTTは、個人がIOWNの恩恵を受けられる未来を見据えて、今後も技術開発を進めていくとする。将来的には個人が利用できるようなサービスが登場する可能性はある。

Q2 IOWNのネットワークはなぜ必要なの?

 NTTは、社会全体でのデータ伝送量・処理量が増加し続けていることを理由の一つとして挙げている。社会が膨大なデータを扱うようになった結果、データセンターの消費電力は2030年になると、2018年と比較して日本で約6倍、世界で約13倍にまで達するという。二酸化炭素の排出量、エネルギー消費などの削減が求められる世界情勢に逆行している。IOWN構想を通じて低消費電力な技術を実装し、データセンターなどの消費電力を抑えることで持続的可能な社会を目指すという。

 NTTは低消費電力を支える技術として「光電融合技術」を開発している。電気によって信号処理している箇所などを光で処理できるようにする技術だ。現在のサーバーは、きょう体内部のバスとして電気信号によるPCIe(PCI Express)などを使っている。しかし、電気信号は、高速・大容量のデータを回路に伝送する際にエネルギー損失が大きく、熱が発生しやすい。そこで電気的な信号処理を光に置き換えていくわけだ。