どんなに手を尽くしても、システム障害やセキュリティー事故をゼロにはできない。危機管理広報の専門家によれば、インシデントが発生した際、企業にとって重要なのは、迅速で顧客目線を持った情報開示だという。
その事実を世に知らしめた顕著な例が、みずほ銀行のシステム障害における情報開示である。同行は2021年2月から2022年2月までの約13カ月間に合計11回のシステム障害を起こした。金融庁は2021年11月26日にみずほフィナンシャルグループ(FG)と同行に業務改善命令を発出した際に「社会インフラの一翼を担う金融機関としての役割を十分に果たせなかったのみならず、日本の決済システムに対する信頼性を損ねた」と厳しく指摘するほどの社会的な混乱を招いたといえる。
当時の反省を踏まえて同行は現在、有事の際の情報開示の在り方を見直している。経緯を具体的に見ていこう。
4時間以上もATM前で立ち往生
最初のシステム障害が発生したのは2021年2月28日、日曜日の午前9時50分ごろだった。みずほ銀行の営業店や出張所などにあるATMに同行の通帳やキャッシュカードを取り込まれる利用客が全国で相次いだのだ。
「ATMに通帳が取り込まれたまま出てこない。自宅にも帰れず、どうしたらいいのか」。同日正午すぎ、神奈川県のある同行出張所で50代男性会社員はこう漏らした。最終的に同行が保有するATM約5900台のうち最大4318台で不具合が生じたわけだが、多くの利用客が男性会社員のように途方に暮れたとみられる。
なぜならATMの画面には「現在取扱いを停止しています」と表示されるだけでどこを触っても通帳やカードが戻ってこないばかりか、ATMに備え付けてある電話(同行ではオートフォンと呼ぶ)も一向につながらなかったからだ。明らかにトラブルが発生しているが同行のWebサイトにもTwitterなどSNS(交流サイト)の公式アカウントにもATMトラブルのアナウンスはない……。
同行がWebサイトにアナウンスを出したのは約3時間後の午後1時15分。ただその第1報はシステム障害が発生しているとしただけで、取り込まれた通帳やカードの扱いについて説明がなかった。
「取り込まれた通帳やキャッシュカードは後日みずほ銀行が責任を持って返却する」という、同行の具体的な対応を示したのは同日午後3時58分と、障害発生から実に6時間を要した。Twitterの公式アカウントが障害情報を発信することは、当日中はついになかった。
報道によれば4時間以上もATMの前で待ち続けた人がいたという。当日は多数の悲嘆や怒りの声がSNSで拡散されたことで、企業としての信用やブランドが毀損したといえる。なお同年6月には同行の藤原弘治頭取(当時)が障害当日に事態を知ったのがネットニュースだったことも判明し、こちらもSNS上でマイナスの意味で話題となった。