磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)などで撮影した医用画像をAI(人工知能)によって解析し、医師の診断を支援する動きが広がっている。日本でもすでに、人体の様々な部位を対象とした画像診断支援AIが登場しているが、市場はどのような状況にあるのだろうか。内視鏡AIを開発するAIメディカルサービス(東京・豊島)のCEO(最高経営責任者)で、業界団体のAI医療機器協議会の会長を務める多田智裕氏に現状を聞いた。(聞き手は大崩 貴之、高橋 厚妃=日経クロステック/日経デジタルヘルス)
画像診断支援AIは、医療分野におけるAI活用の中でどのような立ち位置になるのでしょうか。
多田氏:まず、医療におけるAIの活用は大きく3つのシーンに分類できると考えています。予防と診断、そして治療です。予防は疾患リスクの判定などが該当します。治療では、治療用アプリのアルゴリズムや手術支援などにAIが使われています。
診断、特に画像診断はAI活用が大きく期待されている領域です。厚生労働省が設置した「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」により、AIの実用化が比較的早いと考えられる領域が4つ選定されています。画像診断支援はその1つで、他にはゲノム医療、医薬品開発、そして画像以外の診断・治療支援が挙げられています。
一般に、AIは大量のデータを処理するのが得意で、画像認識はその代表例です。研究開発が盛んで技術的な裏付けがあるため、AIの中でも製品化までたどり着きやすいといえます。AI医療機器に目を向けると、日本で承認されたAI医療機器は2022年3月時点で20件あり、現在ではさらに増えていますが、その全てが画像認識AIをベースとしたものになっています。
この数をどう捉えればよいでしょうか。
多田氏:画像診断支援AIがAI医療機器の中心であることは確かですが、その総数が多いわけではありません。米国でも米食品医薬品局(FDA)の承認を受けたAI医療機器のうち大部分が画像診断支援AIで、この傾向は日本と同じです。ただし承認数は大きく異なります。
機械学習などのAIを使った医療機器としてFDAが承認した件数は2022年10月時点で521件あるので、日本の20件と比べると、20倍以上の差です。人口の違いがあるので2~3倍は仕方ないですが、数十倍となると日本はもっと頑張らなくてはならないというのが業界としての共通認識です。
日本では医用画像を撮影する機器が広く普及しています。MRIやCTの人口当たりの設置台数はOECD(経済協力開発機構)の加盟各国で日本が最も多いとされています。また日本は皆保険制度で広く検査を受けられるシステムが整っているため、医用画像のデータが大量にあります。画像診断支援AIの開発という観点からは、日本はこうした強みを十分に生かし切れていないのではないかと思います。
画像診断支援AIを開発するプレーヤー自体も足りていません。もっと多くのプレーヤーが参入しないと、世界に通用する産業にならないと思っています。例えば10年後に画像診断支援AI自体は日本の医療現場で多く使われてはいるものの、それらは全部外国製といったような状況になってしまうのではないかという危機感があります。
数が多すぎると「どれを使えばいいか分からない」といったデメリットが生じることはありませんか。
多田氏:米国のように数百の選択肢から最適なものを選べるというのと、限られた選択肢の中から選ぶのとでは、医師や患者にとってのメリットが大きく異なります。数が十分に増えると、それらをまとめる比較サイトのようなものが出てきて、値段や性能などを見比べながら選べるようになるかもしれません。増えすぎて困るのではないかという懸念をするには、日本の現状は早すぎる段階です。もしそうなったらそれは逆にうれしい悲鳴でしょう。