トラックドライバー不足が深刻化すると予想される「2024年問題」*1。一般の物流だけでなく、工場内で大型の部品・部材を搬送するためのトラックにもその問題が影を落としている。かといって、自動搬送車(AGV)や自律走行搬送ロボット(AMR)では、搬送能力に限界があるし、建屋間の移送も難しい。
そんな中、JFEスチールが取り組んでいるのが、自動運転のトレーラートラック(以下トラクター)による重量・長尺物の無人搬送の実現だ(図1)。既存のトラクター(エンジン車)に、IHIが開発している、既存車両への自動運転用後付けユニットを搭載。スラブやビレットといった重量・長尺品を搬送する実証実験を、東日本製鉄所京浜地区扇島エリア(川崎市)の敷地内で2023年2月から実施している。
ハンドル操作のためモーターを後付け
実証実験の車両は、既存トラクターに「電子制御機構」「物理制御機構」を搭載する。アクセルとブレーキは、CANプロトコル通信経由で電子制御機構により制御。物理的に回転させる必要があるハンドルは、モーターなどの物理制御機構を取り付けて制御する(図2)。
実証実験は無人ではなく、運転手が搭乗して行う*2。搬送ルートの一部のみを自動運転とし、その他の範囲は運転手が手動運転する。手動運転と自動運転の切り替えなどの操作は、運転手がタブレット端末の画面上のボタンやスイッチで行う(図3)。
自動運転時、車載コンピューターに走行経路や出発・停止の指示を出すのは、車両管制サーバーだ(図4)。自動搬送トラクターは2基のGNSS(Global Navigation Satellite System、全球測位衛星システム)アンテナを搭載。GNSSで走行時の速度や位置を推定し、7基のLiDAR(レーザーレーダー)で取得した計測データおよび事前に作成した構内の3Dマップと3D搬送ルートを基に走行する。GNSSの電波が届かない場所では、搭載している7基のLiDARから取得した計測データと3Dマップを照合し、自己位置を推定して走行する。
実証実験では扇島エリアの一角に自動運転専用エリアを設けた(図5)。自動搬送トラクターはまず手動運転で走行してトレーラーをけん引し、製鋼工場に向かう。そこでビレットを積載した後、ビレットの保管場所に向かう途中の自動運転エリアの入り口でいったん停止し、運転手が自動運転に切り替える。
そこから運転手は基本的に何も操作せず、車載コンピューターの指示による自動運転となる。保管所まで運んだビレットを作業者が荷下ろしすると、再度出発して自動運転エリアの出口まで自律走行する。自動運転の走行距離は約900mだ。
自動運転エリアでは、運転手が実際に一度走った軌跡を記録した「目標軌道」を走行するよう制御している。速度は直線部分で時速10km、カーブで時速5km。
実証実験では、指示を出す車両管制サーバーのシステムが落ちるなど予期せぬアクシデントはあったものの、「実験の結果はおおむね良好だ」〔JFEスチール 東日本製鉄所 工程部生産管理技術室主任部員(副部長)の岡賢氏〕という。