人手不足の解消や生産性向上のために、自動搬送車(AGV)や自律走行搬送ロボット(AMR)による無人搬送を導入する工場や倉庫は珍しくない。しかしその多くは、運ぶものを水平移動するにとどまる。産業用ロボットを搭載するなどしないと、棚の下部から上部へといった高低差のある移動は難しい。
そんな高低差を伴う搬送で活躍するのが自動フォークリフト(AGFL)だ。工作機械メーカーのヤマザキマザックは、美濃加茂製作所第二工場(以下、第二工場)で2019年からAGFLを導入(図1)。MES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)からの指示で24時間稼働させている。
「札」を置くだけでAGFLに指示
第二工場で稼働しているAGFLは3台(2023年4月時点)。レーザー誘導方式で自車位置を特定して自律走行する(図2)。具体的には、AGFLから照射したレーザーを工場内の壁などに設置した反射板が反射。AGFLに搭載したレーザースキャナーで反射光を受け、反射板に対する自車位置の角度と距離を計測して自らの位置を認識する方式だ。
AGFLの自律走行システムは工場内のレイアウトや作業スペース、棚の位置などのマップを持っている。AGFLはこのマップと、レーザースキャナーで認識した自らの位置情報を基に自律的に移動できる。
どこへ、いつ運ぶのか。作業の開始と完了をMESが管理している場合は、MESがWi-Fiを介してAGFLに指示を出す。そのため、休日や深夜など作業者がいない時間帯でも、AGFLは運転手なしで部品を自動搬送する。土日にAGFLが必要な部品を搬送したおかげで、月曜の朝からすぐに組み付け作業に取り掛かれる、といったケースもあるという。
作業者が、搬送の指示を出すこともできる。その場合は、ワークの品番や個数、納期などのデータが分かるRFIDを埋め込んだ「ワーク札」を用いる。
例えば、ある部品の加工が完了した場合、作業者はRFIDを読み取るリーダーに、そのワークのワーク札と、やはりRFIDを埋め込んだ「作業完了」を知らせる札を置く*1。するとMESに「そのワークの情報」と「作業が完了した時刻」などが伝わる。MESは、その情報を基に、そのワークを次に工場内のどこのどの棚に移動させるかという指示を、ワークの近傍にいるAGFLに送信する。
AGFLはこの指示に従って、ワークが載ったパレットを所定の場所へ搬送する*2。パソコンやタブレット端末を用いて入力したり、バーコードをリーダーで読み取ったりしなくても、ただ札を置くだけで自動搬送の指示を出せるわけだ。
ワークを載せたパレットの移動状況などは工場内のディスプレイで確認できる。一定期間以上移動していないパレットは、ディスプレイ上で赤く表示されるので、作業の遅延なども分かる。