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 ジャパンマリンユナイテッド(JMU)子会社で防衛装備品を手掛けるJMUディフェンスシステムズ(京都府舞鶴市)は2023年3月、海上自衛隊の新型多機能護衛艦「もがみ」に搭載する自律型の無人水上艇「USV(Unmanned Surface Vehicle)」を納入した(図1)。「国産で実用段階のUSVを製造しているのは当社のみで、初めての納入事例となる」(同社開発部長の下田義守氏)としている。

図1 海上自衛隊に納入した自律型の無人水上艇
図1 海上自衛隊に納入した自律型の無人水上艇
JMUディフェンスシステムズが開発した。海上自衛隊の新型多機能護衛艦「もがみ」に搭載される(写真:JMUディフェンスシステムズ)
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 このUSVは海上自衛隊のもがみに搭載され、水中無人機および自走式機雷処分用弾薬の母船となる。これらの組み合わせによって、有事には母艦が危険海域に進入することなく、海底や海中に仕掛けられる機雷をソナーなどで探知し、自律的に処分できる。機雷処分任務の無人化を実現し、人的なリスクを大幅に減らすことが期待されている。また、USV単体では、警戒監視や偵察といったユースケースが想定されている。

 JMUディフェンスシステムズの売り上げは9割以上が防衛省向けで、今回納入したUSVは、同社が社内開発をした自動運航船の技術をベースにした試作艇「うみかぜ」を、舞鶴市の自社施設と周辺海域で実証を重ね、製品化したものである。

 ただし、防衛省向けの案件は少量多品種の世界で数は見込めない。そこで同社は自動運航船「うみかぜ」を防衛用途からスピンオフし、民生用途での展開を目指す。「デュアルユース」の推進である。

 例えば、港湾部の重要インフラの監視や消波ブロックなどの点検に使ったり、港湾部や島しょ部で水上バスや荷役運搬船として使ったりする。自動運航船とはいえ、現時点では法律上、小型船舶として登録する必要があるため、最大12人が搭乗できる。少子高齢化に伴う労働人口の減少という社会問題に、省人化・無人化技術で貢献できるとしている。

 うみかぜの船体は、寸法が全長11m×全幅3.2m×高さ1.5mで、排水量(重さ)は11t(トン)。ディーゼルエンジンをベースにした2基のウオータージェット推進器で、最大23ノット(時速約42.6km)で航行する(図2)。周辺監視カメラ(可視光/赤外線)のほかに、高精度GNSS(測位衛星システム)、周辺認識用と計測用のLiDAR(レーザーレーダー)を搭載する。自動操船のほか、遠隔手動操船、手動操船が可能だ。

図2 JMUディフェンスシステムズの自動運航船
図2 JMUディフェンスシステムズの自動運航船
自動操船のほか、遠隔手動操船、手動操船が可能。寸法は全長11m×全幅3.2m×高さ1.5m。排水量(重さ)は11t。ディーゼルエンジンをベースにした2基のウオータージェット推進器で、最大23ノット(時速約42.6km)で航行する(写真:JMUディフェンスシステムズ)
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 主な自律機能として、1.自動運航、2.定点保持航行、3.自動着桟(着岸)、4.障害物回避を有する。1については、管制装置から指定された複数のウェーポイント(WP)間を高精度にトレースする。波高2.5mの環境でも航路を保持するという。

 2は、管制装置から指定されたWPで、定点を保持する機能だ。アンカーを出さずに一定の円内にずっと留まり続けることが可能である。位置保持優先と方位保持優先の2種類のモードを有している。「例えば、うみかぜとケーブルで接続されたROV(遠隔操作型無人潜水機)が水中作業を行っている場合などに、船首の向きが変わるとケーブルの挙動が原因となってROVの動作に支障を来してしまう。このUSVは、ウオータージェット推進器を制御して方位を保持するため、その心配がない」(下田氏)という。

 3の自動着桟(着岸)機能は、着桟(着岸)位置を高精度に認識させる必要があるため、高精度測位サービス「VRS-RTK」を採用した。VRS-RTKは、GNSSの補正データと仮想基準点「VRS(Virtual Reference Station)」をインターネット経由で取得することで、高精度な測位を実現する。

 JMUディフェンスシステムズは、自動運航船を使った各種海洋施設の無人点検の実証実験を行い、それが技術的に可能であることを確認済みだという。例えば、陸上局からの遠隔管制によって計画航路を3~4ノット(時速約5.55~7.4km)の速度で航行し、海洋施設に平行して高精度で繰り返し自動航行できることを確認している。

 また、沖合の消波ブロックに平行して航行し、マルチビームソナーとLiDARで点群データを取得し、それらを統合して3次元の点群モデルを作成できることを確認した(図3)。従来は漁船からカメラを水中に入れて撮影し、映像を確認していた。3次元の点群モデルで状態を確認できるため、従来より精密な点検が可能になる。

図3 消波ブロックの3次元点群モデル
図3 消波ブロックの3次元点群モデル
従来のカメラ映像と比較して、3次元の点群モデルで状態を確認できるため精密な点検が可能になるという(出所:JMUディフェンスシステムズ)
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 同社は現在、リチウムイオン電池で駆動する電動の自動運航船を開発中だ。「特に都市部では二酸化炭素(CO2)対策から電動のニーズがあるからだ」(下田氏)。開発には、出力などのチューニングに2年程度がかかる見通しとしている。

 現状、国内では自動運行船を実運用することは法律で認められていない。地上の一般道と同様、実証ではUSVに人が乗ったりすることなどで対処している。国土交通省は2022年2月に「自動運航船に関する安全ガイドライン」を発表し、2025年の実用化を目標に環境を整備していく方針だ。