「ふざけるなと言いたい。『お客様の命(いのち)第一』という目線でクルマづくりを考えていない証拠だ」──。ダイハツ工業で発覚した側面衝突試験の不正について、トヨタ自動車関係者は怒声を上げる。同氏が憤る理由は2つある。
1つは、不正の対象車にトヨタブランドのクルマ(トヨタ車)が含まれているからだ(図1)。トヨタ自動車は2009年に起きた大規模リコール問題以降、「安全」であることはもちろん、「安心」でもあるクルマづくりを進めて顧客からの信頼の回復に努めてきた。今回不正が発覚したトヨタブランドのクルマは、トヨタ自動車とダイハツ工業がOEM供給契約・共同開発契約を結んだもの。ダイハツ工業が開発から認証試験までを手掛けたとはいえ、トヨタ自動車が当局に車両型式の認可を受けた後でトヨタ車として販売しているのだ。
もう1つは、今回の不正の発覚が「内部告発」(トヨタ自動車の豊田章男会長)だからである。「これは根が深い問題かもしれない。内部告発がなければ、そのままずっと不正が続いていた可能性がある」(トヨタ自動車関係者)。というのも、同じトヨタ自動車グループ内でエンジン不正が発覚している日野自動車も豊田自動織機も、社員が見つけて社内の正式なルートを経て社内調査に進んでいる。これに対し、ダイハツ工業で不正の事実を見つけた人物が内部告発を選んだのは、そうした形でなければ社内のどこかで圧力を受けてもみ消されてしまうと考えた可能性がある。
トヨタの佐藤社長も説明
ダイハツ工業が件(くだん)の不正会見を開いた2023年4月28日、トヨタ自動車もオンラインの緊急会見を開いた(図2)。同社の豊田章男会長と共に会見に臨んだ佐藤社長は、元技術者の視点から不正の内容について説明した。
該当する法規は国連法規である「UN-R95」と、中近東のGSO(湾岸標準化機構)法規だ。これらは側面衝突時における乗員への危害性などを評価するものである。
図3が該当する認証試験だ。車両に対し、側方から衝突用の台車を50km/hで衝突させた際の衝突用ダミーに対する傷害値や危害性、脱出性を総合的に評価する試験となっている。ダイハツ工業はこの認証を取得する際に、ドアトリム(ドアの内側に貼る樹脂製パネル)に切り込み(スリット)加工を施した状態で側面衝突試験を行った。