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 スマートフォンの現在の競争軸はカメラ性能である。ここ5年ほど、カメラの複眼化によって、その性能は向上してきた。しかし、3眼カメラの搭載で筐体(きょうたい)のスペースは限界を迎えつつある。

 米Apple(アップル)の「iPhone」も近年はカメラの進化が鈍化している。2019年に発売した「iPhone 11 Pro/Pro Max」で3眼カメラを採用して以降カメラの数は変化していない。画素数も2022年発売の「iPhone 14 Pro Max」まで1200万画素で止まっていた(表1)。

表1 2018年からのiPhoneのカメラ技術の変遷
表1 2018年からのiPhoneのカメラ技術の変遷
センサーサイズについては公表されていないため、比較サイトなどの内容を参考(表は日経クロステックが作成)
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 ただ、現在は踊り場という状況で、今後もスマートフォンのカメラの進化は止まらない。例えば、2023年にアップルが発売予定の「iPhone 15 Pro MAX」で「ペリスコープ(潜望鏡)」を採用すると噂されている。

では、5年後のスマートフォンのカメラはどうなっているか(図1)。現在のトレンドとデバイスメーカーの取材から予測してみた。

5年後のスマートフォンのカメラはこうだ

図1 5年後のスマートフォンのカメラ予測
図1 5年後のスマートフォンのカメラ予測
(図は日経クロステックが作成)
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 まず、フロントカメラ(ディスプレー側のカメラ)。高画質なセルフィー(自撮り)を実現するため、複眼化が進む。フロントカメラを複眼化する動きは徐々に出てきている。中国・小米科技(Xiaomi、シャオミ)が、2022年9月に販売開始した「Xiaomi Civi2」や、2023年3月に販売開始した「Xiaomi 13 Lite」でフロントカメラを2眼にした。狙いは、高画質なポートレート(人物を被写体とした写真)撮影を実現するためだ。アップルのiPhone 15 Pro MAXでもフロントカメラが2眼になると噂される。

 次はバックカメラ(背面側のカメラ)だ。カメラの個数は、現状から変化はない。既にスマートフォンの筐体はほとんどスペースがなく、これ以上の複眼化が難しいからだ。

 ただし、センサーサイズは大型化する。ハイエンド機種を中心に1型センサーの採用が増えていく。2022年から、1型センサーを採用した機種の発売が増えており、5年後には市場が形成されていると予想する。

 デバイス構造は、望遠特性と手ぶれ補正を改善するための構造に磨きがかかる。望遠特性を改善するためにペリスコープや、複数のレンズ群を動かし焦点距離を変える「可変式望遠レンズ*」の使用が広がり、一眼カメラのような使い方に近づく。

*可変式望遠レンズ:通常のスマートフォンのカメラは複数のレンズを組み合わせたレンズ群が1つしかないため、焦点距離が固定されている。一方、可変式望遠レンズはレンズ群を複数搭載しており、レンズ群を動かすことで焦点距離を変えられる。

 手ぶれ補正は、年々増えている動画撮影への需要に応えるためだ。「TikTok」や「YouTube」への投稿などで動画を撮る機会が増えており、静止画から動画撮影へとカメラの使い方のシフトが加速している。それに合わせて、高画質な動画撮影への需要が増えている。センサーやレンズを動かして手ぶれ補正をする従来のやり方から、カメラモジュールを動かして補正する「Module Tile OIS(Optical Image Stabilizer)」や、センサーやレンズを様々な軸に沿って動かすことで補正する「多軸OIS」などの高性能な補正方式へと進化していく。

 以下では、こうした新採用技術の詳細や進化の方向について見ていく。