霞が関の府省庁と地方自治体の情報システムは原則、デジタル庁が整備するパブリッククラウド基盤「ガバメントクラウド」を利用する――。国が決めたこの方針を進めるためには、デジタル庁と各府省庁・自治体・事業者との連携は不可欠だ。ただ、情報不足やコミュニケーション不全から、不協和音が生じている。今後ガバメントクラウドへの移行を進めるために、2つの課題がある。
「デジタル庁は自治体の現状を理解していないのか」
1つめがガバメントクラウドへの移行支援に向けた情報提供や各府省庁・自治体・事業者との円滑なコミュニケーションを進めることである。
「ガバメントクラウドの情報が少ない、動きが鈍いという批判があった。庁内で重く受け止めている」――。2023年4月末、千葉市で開催されたクラウド提供事業者のイベントで、デジタル庁担当者は、自治体システム標準化の講演の最後にこう述べて締めくくった。
実は、2023年1月、デジタル庁が地方自治体向けにオンラインで開催したガバメントクラウドの説明会が「炎上」した。
「デジタル庁は自治体の現状を理解していないのか」「理想は分かるが、現実問題コスト増になるとしか思えない」――。オンライン会議のコメント欄にはデジタル庁担当者の説明に疑問を呈したり反発したりする、自治体担当者からのコメントがあふれた。
デジタル庁は同時期に事業者向けにもガバメントクラウド説明会を実施したが、こちらでも「ガバメントクラウド移行に向けて私たちが必要な情報が得られるかと参加したが、そうではなく(デジタル庁担当者が)自分たちの理想を押し付けるように感じた」(参加した事業者)と落胆の声が上がった。
ガバメントクラウドを巡っては、これまでのガバメントクラウドの整備の段階から、クラウド移行支援へとフェーズが進み、それに伴いデジタル庁に求められる内容が変化してきている。
デジタル庁で新たに移行支援CoE体制を整備
ガバメントクラウドを巡る経緯はこうだ。2020年12月に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」の中で整備と国と自治体での利用の計画が公表され、2021年9月に発足したデジタル庁が整備を進めてきた。
デジタル庁はガバメントクラウドとして、2021年秋と2022年秋に、海外のクラウドサービス提供事業者が提供する「Amazon Web Services(AWS)」「Google Cloud」「Microsoft Azure」「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を採択。これまで先行事業や整備を進めてきたが、2023年度以降、各府省庁や自治体での利用を推進する、システムのクラウド移行段階に入った。
足元ではデジタル庁のシステムや先行事業での自治体や都道府県のシステムなど、約25システムがガバメントクラウド上で稼働している。多くがAWSを利用している。
これに対し、2023年度は年間運用コスト数億円以下の比較的小規模システムを中心に、霞が関の府省庁の約65システムが移行する予定だ。2024年度以降は大規模システムの移行も計画している。その上で、2025年度末までに、全国1741自治体が標準準拠システムへの移行が義務付けられている自治体システム標準化での利用も進む見込みだ。
こうした状況に対し、デジタル庁でも体制整備を急ぐ。
これまでデジタル庁内では主に3つの組織が、ガバメントクラウドに携わってきた。各府省庁の情報システム予算を一括計上しプロジェクトの統括監理をする「戦略・組織グループ」、各府省庁の情報システム整備を支援する「省庁業務サービスグループ」、民間専門人材のエンジニアらからなる「ガバメントクラウド班」である。
これに対し、2023年5月からは新たに移行支援CoEを始めるとする。これまでデジタル庁職員が府省庁や自治体などからのガバメントクラウド移行についての問い合わせに対応していたが、「新たに事業者に委託して問い合わせ対応や移行支援などを行う体制をスタートする」とデジタル庁の浅岡孝充総括(特命)参事官は説明する。