「自動車産業は今『100年に1度の変革期』にあると言われている」という書き出しで始まる記事やリポートを見ない日はない。
ローマは一日にして成らないが、変革も一日にして成らない。今日ではパソコン(PC)やスマートフォンなど、さまざまな情報機器が日常に浸透しているが、IT革命は1995年以降に加速した。「Windows95」の発売、インターネットの商業化から始まり、ブラウザー間の激烈な競争やブロードバンド化、携帯電話・スマートフォンの登場と爆発的普及、さらにIoT(Internet of Things)・ビッグデータ・AI(人工知能)など、この20~30年の間に次から次へと変革の波、新しい競争軸が現れてきたのである(その中には2000年のITバブル崩壊、ここ2~3年の新型コロナウイルス禍によるテレワークへの移行など、技術革新だけでない変化も含まれる)。
自動車産業の「変革」についても、まだ緒に就いたばかり、と見るべきだろう。4つの変革トレンドを表した「CASE」をドイツDaimler(ダイムラー)が発表したのは2016年である。本連載では、そこから7年がたった今、捉えるべき変革の波や、競争軸はどのように変化してきているのかを、5回にわたって論じる。第1回では、次回以降、個別に詳説していく新たな競争軸を俯瞰(ふかん)したい。
各国の自動車業界の経営層はどのような問題意識、将来への展望を持っているだろうか。KPMGは、全世界の自動車業界のエグゼクティブを対象とした調査を毎年行っており、2022年に実施した最新の調査*1は23回目となる。関心の高いトピックの1つはやはり、「パワートレインの未来」であった。
バッテリーEV(電気自動車)の2030年における市場浸透度に対する見方は、前回(2021年調査)に比べて、楽観度が後退している(図1)。原材料の調達から生産能力、各国の政策動向などを検討し、より現実的な見方になってきていると言えるのではないだろうか。一方で、回答者の70%は、政府の補助金がなくても2030年までにEVのコストは内燃機関(ICE)車と同程度になると見ている。工場の新設や開発研究に多額の投資が行われてきたこともあり、自動車メーカーはEV生産の経済性の高まりに自信を強めていると考えられる。