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 「これまで当社と付き合いが薄かった中堅中小企業に当社のクラウドサービスを売るためにも、パートナーの力に頼っていく」。日本IBMのパートナー・アライアンス&デジタル・セールス事業本部長の三浦美穂専務執行役員はこう強調する。

 日本IBMは2023年7月、新たなパートナー施策「IBM Partner Plus」を本格的に開始する。柱の1つは、パッケージソフトウエアにIBMのAI(人工知能)「IBM Watson」の機能を組み込んだSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を提供するISV(独立系ソフトウエアベンダー)を優遇することだ。ISVの持つパッケージソフトのチャットボットやモバイルのQ&Aの応答などに、Watsonの自然言語処理機能の活用を見込む。

 「サブスクリプション型のクラウドサービスは、数多くのユーザー企業に使ってもらうことが重要になる。新規顧客を獲得するためには、これまで日本IBMの製品やサービスを利用していなかった中堅中小企業にも当社のクラウドサービスを利用してもらうことが欠かせない」(三浦専務執行役員)。中堅中小企業向けのパッケージソフトにIBMのクラウドサービスを組み込むことで、ユーザー企業の拡大を狙う。

 SAPジャパンもサブスクリプション型のビジネスに転換するために、パートナー戦略を大きく変えた。中堅企業向けのライセンス販売の方式を間接販売にした。「間接販売に踏み切ったのは、市場拡大のスピードをアップするためだ」。SAPジャパン パートナーエコシステムサクセス統括本部長の服部貴志江チーフ・パートナー・オフィサーはこう説明する。

 これまでSAPジャパンの製品ライセンスは、SAPジャパンがユーザー企業にライセンスを直接販売する直販が中心だった。システム構築はパートナー企業であるITベンダーが担当するが、製品ライセンスはSAPジャパンが直接ユーザー企業に販売するのが直接販売だ。これからはパートナーであるITベンダーがSAPジャパンからライセンスを購入し、システム導入サービスと合わせて販売する。

 SAPジャパンは2022年度から間接販売を開始。年商800億円未満の中堅中小企業向けのライセンス販売は、「100パーセント間接販売に移行して、初年度の2022年度はほぼ実行できた」と服部チーフ・パートナー・オフィサーは振り返る

 SAPジャパンは現在、中堅企業向けのERP(統合基幹業務システム)について、オンプレミス型の「S/4HANA」からSaaS型のERP「S/4HANA Cloud」の拡販へとかじを切っている。間接販売とともに中堅中小企業向けの新規ERP導入では「ほぼ100パーセント、S/4HANA Cloudになっている」(服部チーフ・パートナー・オフィサー)。

 クラウド型のERPを数多く販売するためには、パートナーにより多くの顧客に導入してもらう必要がある。そのためにはライセンス販売とシステム導入をパートナー経由に一本化できる間接販売が向いていると判断した。服部チーフ・パートナー・オフィサーは「パートナー支援のチームをSAPジャパン内に置き、本腰を入れてパートナーを育てている」と説明する。新規で参入するパートナーには「基幹系システムならではの経営層へのアプローチ方法などを教育している」(服部チーフ・パートナー・オフィサー)という。

Google CloudとAWSも新施策

 日本にクラウド最大手の米Amazon Web Services(AWS)が2011年に上陸してから12年。依然としてクラウドサービスの市場は拡大を続けている。ガートナージャパンの調査によると、クラウドサービスの1つであるIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の市場規模は右肩上がりで成長すると予測する。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)も含め、クラウドサービス市場が好調なのは間違いない。

日本のIaaS市場規模予測
日本のIaaS市場規模予測
(出所:ガートナージャパン)
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