IT関連トラブルを検証する日経コンピュータのコラム「動かないコンピュータ」から、裁判に発展した事例を再録しました。本記事は、日経コンピュータ2014年12月25日号の「動かないコンピュータ」です。
医療機器大手のテルモが物流管理システムの刷新に失敗。構築プロジェクトは中止に追い込まれた。テルモは開発委託先のアクセンチュアを相手取り、38億円の損害賠償を求めて提訴した。完成に導く義務やプロマネ義務への違反があったかが争点となっている。
テルモがアクセンチュアに対し、巨額の賠償金の支払いを求める訴訟を東京地方裁判所に起こしたのは2014年8月のことだ。訴状によれば、アクセンチュアに構築を委託した物流管理システムが完成不能になり、債務不履行および不法行為が発生したとする。テルモは損害の賠償金として、38億6124万9700円の支払いを請求した。
物流管理システムは、基幹システムの刷新プロジェクトである「AXELプロジェクト」の一環として、アクセンチュアに構築を委託したもの。プロジェクトを2010年に開始したものの、2013年春に作業を中断。再開に向けた議論を1年ほど続けたが、プロジェクトは結局中止に追い込まれた。
テルモは訴えの中で、アクセンチュアがシステムを完成に導く義務を履行しなかった、プロジェクトマネジメント義務に違反した、の2点を指摘。これに対して、アクセンチュアは全面的に争う構えだ。テルモの訴えに反論する答弁書を提出。完成に導く義務にもプロジェクトマネジメント義務にも違反していないと主張する。
テルモは「係争中のためコメントは差し控える」(広報室)、アクセンチュアは「係争中の案件については一切回答できない」(広報)とする。裁判記録を基に経緯を見ていく。
単体テストまでは順調に推移
事の発端は2009年秋にさかのぼる。テルモにおける当時の基幹システムの状況を問題視したアクセンチュアが、テルモに対してシステム刷新を持ちかけた。テルモはシステム診断と構想立案をアクセンチュアに委託し、2010年1月に報告書を受け取った。
アクセンチュアはこの報告書で、以前にテルモが取り組んだシステム刷新プロジェクトが頓挫したことに触れつつ、「テルモのシステムは10年以上遅れている」と指摘。これを受けたテルモは基幹システムの刷新を決意し、物流管理システムの要件定義および基本設計をアクセンチュアに委託することに決めた。計画作成などを2010年に開始し、2011年に要件定義・基本設計の契約を交わした。
要件定義と基本設計を終えたアクセンチュアは2012年3月、テルモに詳細設計以降に関する提案書を出した。米オラクルのERP(統合基幹業務システム)「Oracle E-Business Suite」を採用し、米マイクロソフトの開発・実行環境「.NET」でカスタマイズする形で、詳細設計以降もアクセンチュアに委託すべきとの提案だった。テルモはこの提案に同意し、アクセンチュアに開発業務を委託した。
詳細設計と単体テストはほぼ予定通りに終了。プロジェクトはここまで比較的順調に進んだ。
システムテスト着手後に中断
ところが2013年に入り、プロジェクトにほころびが見え始めた。結合テストの後に実施するシステムテストのシナリオ作成の不備をテルモが指摘したのだ。テルモは「テスト項目が粗い」「業務に即していない」などとし、アクセンチュアに改善を求めたという。
システムテストに着手した直後の2013年4月には、プロジェクトが止まった。アクセンチュアは「小さな問題が発生したので対応策を検討させてほしい」「すぐに再開できる」などと説明した、とテルモは述べる。だが問題は解消されず、同5月にはアクセンチュアがテルモに正式な中断を申し入れた。テルモによれば、アクセンチュアは「社内レビューで『基本設計まで立ち戻るべきだ』と判断された」と説明したという。
分析を進めたアクセンチュアは、設計の問題点をテルモに報告した。問題点として、「複数機能が連携動作するように機能間で整合性を取った、いわゆる“横串が通った”設計になっていなかった」「品目マスターなどの検討が不十分だった」「テストのシナリオが業務フローに基づいていなかった」などを挙げた。その上でアクセンチュアは「2014年1月の稼働は難しい。最も早くて2014年5月以降になる」と報告したとテルモは説明する。