木造を多用したビルが世界の先進国で完成し始めている。高層化が進む大きな理由は、コストや工期の面で事業性が高まったからだ。法制度の違いなどから日本は後れを取るものの、高層化の兆しは見えてきた。
近年、木を主要な構造材に適用した7階建て以上の高層ビルが、欧州や北米で次々に完成している(参照)。木構造を多用したビルの高さ競争は、激烈さを増す。
既に紹介したカナダで完成間近の高さ58mのブロックコモンズを尻目に、オーストリアでは2016年10月、木造を多用した高さ84mの24階建てビル「HoHoウィーン」が着工した。このほか、スウェーデンでは木と鋼材のハイブリッド材料を使う34階建て集合住宅の計画が、英国ではケンブリッジ大学のマイケル・ラマジ博士らによる80階建ての木造超高層ビル構想が、それぞれ発表されている。
木造を多用した事業で強くアピールされる項目の1つが環境負荷の低減だ。軽い木材を使って運搬や施工時の二酸化炭素(CO2)排出量を減らすだけでなく、建物にCO2を固定する役割を期待している。
CO2排出量の抑制は、先進国では特に強い取り組みが求められている。日本でも公共建築などへの木材利用を求める政策において、CO2排出量の抑制は大きな狙いだ。
欧州や北米で木材利用の推進を進める理由の1つに林業の振興がある。カナダやオーストリアなどは木材の輸出国で、林業は重要な産業だ。ブロックコモンズでは、林業振興の観点も踏まえて、“コピー”しやすい高層木造のモデル事業を成立させた。国や州政府が、そのための助成措置も講じている。
しかし、CO2排出量の削減効果や林業振興というお題目だけで高層ビルに木造を採用する民間の事業者はほとんどいないはずだ。民間の事業者にとっては、建物で収益を上げられるか否かが意思決定を左右する。