2016年5月18日、東武鉄道東上本線(東武東上線)の10両編成の上り列車が中板橋駅(東京都板橋区)を出発した直後、非常ブザーが鳴った。運転士は非常ブレーキを作動させて車両を停止。後ろを見ると床下から白煙が上がっていた。車掌が5両目を確認したところ、後台車がレールの右側に脱線していた。台車枠の大きな亀裂が引き起こしたものだった。
事故が発生したのは、列車が中板橋駅を定刻で出発した2016年5月18日12時11分ごろ。出発のために力行*1した後、同駅構内の第12号分岐器の制限速度が35km/hだったことから、運転士は速度約30km/hでノッチオフ*2して最後部車両が同分岐器を抜けるまで惰行運転した。
非常ボタンが押されたのは、同分岐器を通過後に再び力行して加速した直後。異常を感じた乗客の1人が客室内のボタンを押したのだった。停止後、運転士および車掌は、5両目の床下からの白煙と、焦げ臭い異臭を確認。車掌が車外の状態を確認したところ、5両目の後台車の全2軸が右側に脱線していた(図1)*3。さらに、事故後に調べてみると同台車の台車枠の「側ばり」と呼ぶ鋼製部材に大きな亀裂が入っているのが確認された(図2)。
事故を受けて、国土交通省運輸安全委員会(以下、委員会)が原因調査に乗り出した。並行して東武鉄道も、鉄道総合技術研究所の協力の下、独自に調査を実施して2017年10月に原因に関する見解を発表。委員会も2018年1月に調査報告書を公表した1)。本稿では委員会の報告書を基に同事故について解説する。