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2017年11月30日、北海道・苫前町にある新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の設備で爆発事故が発生した。爆発したのは風力発電の余剰電力を利用した水素製造の実証設備の一部。ちょうど試験を始めたばかりだった。発端は、北海道の厳しい寒さによる酸素ガス配管内の凍結だった。

 事故があったのは、苫前町の風力発電所「夕陽ヶ丘ウインドファーム・風来望」に設置された水素製造設備。同設備は、NEDOの事業「水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発/北海道に於ける再生可能エネルギー由来不安定電力の水素変換等による安定化・貯蔵・利用技術の研究開発」の一環として設置された。爆発で建屋と設備の一部は破損したものの、人的被害はなかった。

 同事業は、風力発電設備からの電力を利用して水を電気分解し、水素を生成するとともに、その水素を利用および有機ハイドライドなどとして貯蔵・輸送するための要素技術を開発している。事故は、中核設備ともいうべき水素製造システムの実証設備で起こった。

 事故後、設備の開発・運用を担う川崎重工業が、事故調査・対策委員会を設置。検討内容をNEDOが設置した有識者による第三者技術委員会が評価した、本稿では、公開された調査報告書を基に、原因と対策を解説する1)

風力の変動電力で水を電気分解

 最初に設備の概要と機能をみてみる。同事業の水素製造システムの主要な設備は、「電解用電源」「電解装置」(電解槽、苛性循環タンク)「ガスホルダー」「水素圧縮機」「水素ガス除湿精製器」などから成る(図1*1。電解槽では、苛性循環タンクから供給される約80℃の苛性ソーダ水(30質量%の水酸化カリウム水溶液)を直流電力で電気分解する。

*1 定格条件で30Nm3/h、純度99.9%の水素を製造する能力を持つ。
図1 水素製造システムの概要
図1 水素製造システムの概要
苛性循環タンクから供給される苛性ソーダ水を、風力発電を利用して電解槽で電気分解。生成した水素ガスは、ガス圧を安定させるためのガスホルダー、水素圧縮機、除湿精製器などを通して中圧水素タンクに貯蔵する。水素ガス水封槽と同安全水封槽は、水素ガスの逆流を防ぐためのもの。報告書を基に日経ものづくりが作成。
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 陰極で生じた水素は、40℃程度に冷却されてガスホルダーに送られ、さらに水素圧縮機でゲージ圧を約0.9MPaGまで昇圧して除湿精製器に送られる。除湿精製器の前段では、水素ガス加熱器で水素ガスを100℃程度に予熱し、含まれる微量の酸素を脱酸素塔で除去。その後、冷却器や吸着塔を通して、高純度水素ガスを中圧水素タンクに送る*2

*2 水素ガス除湿精製器を出た水素ガスは、水素添加装置、中圧水素タンクに送られる他、水素ベント管から大気中に放出される。

 ここで、バッファーのような役割を果たすのがガスホルダー。風力発電の変動電力で造ると水素ガスの生成量は変動する。そこで、上部が上下動して体積を変化させられるガスホルダーに貯留して、圧縮機に送るガス圧をある程度一定に保っている(図2)。電解槽とガスホルダーの間にある水素ガス水封槽・水素ガス安全水封槽は、水素ガスをいったん槽内の水に放出し、配管系でのガスの逆流を防いでいる*3

*3 逆流防止の役割は基本的に水素ガス水封槽が担う。水素ガス安全水封槽は、水素ガス系の配管に閉塞が生じて配管内が高圧になった場合の安全弁の役割を果たす。
図2 ガスホルダーの概要
図2 ガスホルダーの概要
電解槽で生成した水素ガスを一時貯留する円筒形のタンク。本槽の上に上下動可能なガス槽が設けられている。電解槽での水素ガス生成量は変動するが、ガス槽が上下して容積が変化して後段への水素ガス供給量を安定させる。材質はステンレス鋼(SUS304)。報告書を基に日経ものづくりが作成。
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 一方、陽極で生成された酸素ガスは、電解液と共に苛性循環タンクに送られた後、冷却器やミストセパレーターを経て酸素ベント管から大気に放出される*4

*4 苛性循環タンクには、電解槽からの他、ミストセパレーターなどで分離された電解液が戻ってくる。なお、酸素ガス配管系にも水封槽が1つある。

 なお、同システムでは電解槽出口の水素/酸素ガス配管の圧力計でガスをサンプリングして水素ガス中の酸素濃度と酸素ガス中の水素濃度を監視。設定値を超えると設備を自動停止するインターロック機能があった*5

*5 その際、高圧の窒素を系内に流して水素ガス・酸素ガスをパージする。