東日本大震災で被災した明治初期の石橋を修復する。石垣から転用した石材には構造的な弱点があったものの、時代背景を尊重して解体後に再び積み上げる。弱点を補うため、超高強度モルタルと和紙を組み合わせた補強方法を採用した。
超高強度モルタルを間詰めして軸力の偏り防ぐ
首都高都心環状線が上空を覆い、対岸に日本銀行本店を望む東京都心で、常磐橋の修復工事が進んでいる(写真1)。明治初期の1877年に完成した橋長約29mの2連の石造アーチ橋だ。九州の石工の石橋技術を駆使して造られた。文明開化の頃に都内に架かった石造アーチ13橋のうち、現存する唯一の橋となる。
修復のきっかけは東日本大震災だ。右岸側のアーチに大きな亀裂が生じ、アーチの軸力を伝え合う「輪石」が抜け落ちてしまう恐れがあった。
橋を管理する東京都千代田区は翌2012年、変状の修復に着手した。石材をいったん解体して、橋脚の基礎まで調査。その後、石材を再び積み上げる工事は16年に始まった。
調査によって、常磐橋の輪石は江戸城外堀の小石川門の石垣を解体した際に出た石材を転用したことが明らかになった。石垣を90度手前に倒して、アーチ橋に仕立て直したイメージだ。石垣の法面がアーチ橋の下面に当たる。
この転用が構造的な弱点を生んだ。石垣の石材は裏込め材との摩擦を高めるため、法面の表側よりも裏側がすぼんだ形状をしている。アーチ橋の輪石として使った場合、隣り合う輪石同士の背面側に隙間が生じる。均一な面で接することができず、アーチの軸力が一部に集中した。
しかも、関東大震災後の1934年に実施した「昭和の修理」が状況を悪化させた。輪石の裏込めにセメントペーストを充填した結果、輪石の背面側の剛性が高まり、アーチの軸力が背面側に偏ったのだ(図1)。
「軸力が偏ったことで、輪石の下面が目開きしやすくなった。東日本大震災で変形した原因の1つと考えられる」。常磐橋の調査・設計を担う文化財保存計画協会の西村祐人主任研究員はこう話す。