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 「ドーン」という轟音(ごうおん)を立てて屋根が落ちたのは、2014年2月15日午前8時ごろ。関東地方を大雪が襲った翌日のことだ。埼玉県富士見市の市民総合体育館メーンアリーナの鉄骨トラス屋根が、約2000m2にわたって崩落した〔写真1〕。

〔写真1〕2000m2の屋根崩落
〔写真1〕2000m2の屋根崩落
鉄骨トラス梁で組んだ屋根が崩落した富士見市立市民総合体育館メーンアリーナ。躯体は鉄筋コンクリート造で延べ面積は約3077m2。建物高さは21.1m。屋根の落下によって床面が陥没している箇所もある。富士見市によれば、2012年2月の定期調査では異常はなかったという(写真:日経アーキテクチュア)
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 同体育館は不特定多数が集まる場所。市が指定する避難所でもある。屋根の崩落が開館前だったため人的被害はなかったが、あわや大惨事となる事故だった。

 屋根はなぜ落ちたのか。富士見市は事故調査委員会を立ち上げた。14年5月末までに開かれた計4回の委員会で、設計者の類設計室(大阪市)、施工者の地崎工業(現・岩田地崎建設、札幌市)が事故調査報告書を提出。市が調査業務を委託した埼玉建築設計監理協会(以下、埼玉設監協)の業務委託報告書もまとまった。

 3者の報告書に大きな矛盾はない。設計にも施工にも問題はなかったとし、設計基準以上の積雪が崩落の原因だと推定している。3つの報告書がそれぞれ示したメカニズムを総合すると、屋根の推定崩落過程は次のようになる。

 (1)基準を超える積雪荷重で梁中央のトラス上弦材が座屈した。(2)梁が折れ曲がり、支点間距離が短くなった。(3)短くなったことで、ローラー支承から梁が脱落。(4)荷重が反対側のピン支承に加わって梁が外れ、全体が崩落した─〔図1〕。

〔図1〕梁中央部の座屈の後で支承から外れる
〔図1〕梁中央部の座屈の後で支承から外れる
屋根崩落のメカニズムの模式図。想定以上の積雪荷重で梁中央部のトラス上弦材が座屈したことが崩落のきっかけだ。第4回事故調査委員会に提出された埼玉建築設計監理協会の報告書に、設計者と施工者の推定した事故原因を加えて図化した。報告書の内容は5月27日に開かれた第4回委員会時点のもので、今後変更される場合がある。事故調査委員会はまだ最終報告書をまとめていないが、3種の報告書に大きな矛盾はなく、同様のメカニズムで結論付ける可能性が高い(資料:埼玉建築設計監理協会の報告書をもとに日経アーキテクチュアが作成、写真:埼玉建築設計監理協会)
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 つまり、崩落は梁中央部の座屈から始まった。報告書をもとに、事故時に作用した応力と部材耐力の関係を詳細に見てみよう。

 体育館の設計当時の基準積雪荷重は0.59kN/m2(60kg/m2)。類設計室の報告書によれば、この荷重条件で、トラス上弦材の短期許容応力度に対する安全性を表す検定値は0.993だった。1.0以下なので基準を満たしてはいるが、同社は「余裕のない計画」と分析した。

 一方で、埼玉設監協の報告書は、事故時の推定積雪荷重を1.0kN/m2として解析した。類設計室の推定もほぼ同様だ。基準の1.7倍の荷重が加わったことになる。

 埼玉設監協は、1.0kN/m2の荷重時に上弦材にかかった圧縮応力を1255kNと解析。終局耐力より応力が上回っていたことから、「上弦材の座屈が崩落の主要因と推測できる」と結論付けた〔図2〕。

〔図2〕1.0kN/m2の荷重で応力が耐力上回る
〔図2〕1.0kN/m2の荷重で応力が耐力上回る
(資料:埼玉建築設計監理協会の報告書に日経アーキテクチュアが加筆)
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