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モーターの応用範囲やユーザー層は、自動車分野を越えて広がっており、モーターを誰もが利用しやすくする製品の開発が活発化している。使い勝手の向上を目的に、モーターの特質は隠蔽される傾向にある。マイコンやネットワークインタフェースと、減速機や軸受けなどの機構部をモーターと一体化し、簡単な命令でユーザーの望む動きを実現する。

 モーターに変化をもたらしているのはEV(電気自動車)だけではない。IoT(Internet of Things)の普及が、「動き」を機器やサービスへ手軽に取り込みたいと考えるユーザー層を広げているからだ。「オブジェ(置物)を手掛けるようなクリエーターから、作品に動きを取り入れたいという声がある」(モーターメーカーの開発者)。誰にでも使いやすいモーターの需要が顕在化してきたようだ(図1)。

図1 手軽に動く応用を実現する手法が求められる
図1 手軽に動く応用を実現する手法が求められる
IoT(Internet of Things)の普及やマイコンの高性能化によって、モーター制御を低コストに実現しやすい環境が整いつつある。ドローンなど動きを伴う応用機器も多様になっている。ユーザー層の裾野が広がり、アクチュエーターに慣れていないユーザーも手軽に使える「誰でもアクチュエーター」の需要が出てきた。(図:日経エレクトロニクス)
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 安価で高性能なマイコンと通信インターフェースを組み合わせれば、インターネット経由で簡単なコマンドを入力することで、手軽にモーターを制御できる。幅広い分野にIoTが浸透してきたことを背景に、“誰でもアクチュエーター"による「IoA(Internet of Actuators)」が市場に登場し始めた。「CEATEC 2019」(2019年10月15~18日、幕張メッセ)の展示から、モーターの応用やユーザーの広がりに対応した開発事例を解説する。

コマンド制御のオールインワンモーター

 ロボット関連製品を開発・販売しているスマートロボティクスは、減速機やベアリング、回転位置・回転数を測るエンコーター、保持用ブレーキ、サーボドライバーを一体化したモーターを開発、2020年に製品化する(図2)。顧客に配布して反応を得るためのアルファ版の開発を終えた。「動くオブジェを開発したいクリエーターやソフトウエア開発者など、モーターの扱いに慣れていない人に使ってもらいたい」(同社)。

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図2 簡単なコマンドで制御できるアクチュエーター
(a)スマートロボティクスが開発したアクチュエーター。手前が開発品。サンプル価格は18万円ほど。後方にある3点が製品版モックアップ。左から順に高トルク品。(b)アルファ版を使って試作した2軸ロボット。(c)アルファ版と製品版の仕様。(写真:日経エレクトロニクス)

 開発のハードルを低くするため、ハードウエアをオールインワン化するだけではなく、設計環境も工夫した。例えば、制御用コマンドの記述には、C言語やPLC(Programmable Logic Controller)用の言語よりも習得が簡単でAI(人工知能)分野で開発者数を増やしているプログラミング言語「Python」を使う。コマンドとして、回転角度や回転数などのマクロな命令をネットワーク経由で送信することによって制御できる。GUI(Graphical User Interface)でのプログラミングを可能にするパソコン用ツールも同社が提供する。コマンドは、RS-485のインターフェースで送る。

 停止時に状態を保持できるブレーキ機構のほか、軸方向や軸と垂直方向の力やねじり力がかかっても耐えられるベアリング機構を内蔵しており、軸にアームを直付けすれば、荷重のかかる多軸ロボットアームを追加機構なしで開発できる(図2(b))。

127個まで併用可能

 複数のモーターを数珠つなぎ(ディージーチェーン)で最大127個接続して、個々に制御することが可能である。電源は直流24V。マイコンボードなどを使ってプログラムを組み込みマイコンに格納しておけば、パソコンを使わずに制御ができる。電池を電源として、マイコンボード側の無線LANやBluetoothを利用すれば、配線レスのスタンドアロンでの利用が可能だ。

 アルファ版は定格トルクが6Nm、寸法が65mm角で長さが110mm。減速比は50対1または100対1。高トルク領域を増した製品版に加えて、3.2Nmの小出力品(55mm角で長さ110mm)と11Nmの大出力品(80mm角で長さ110mm)の3種類の製品版を2020年1月以降に出荷する(図2(c))。

産機向けDDMをAGVなどの車輪に

 ベアリング大手の日本精工(NSK)は、半導体製造装置などの産業機器に使っていたダイレクトドライブモーター(DDM)を基に、AGV(自動搬送車)をはじめとする自律走行車の車輪としてそのまま使えるモジュールを試作した(図3)。

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図3 駆動回路とモーターを組み込んだ車輪
(a)駆動回路やダイレクトドライブモーター(DDM)を内蔵した車輪。NSKが開発した。(b)AGV(自動搬送車)をイメージした試作モジュール。DDMベースの車輪と周囲を空間認識するLiDAR(Light Detection and Ranging)を搭載している。(c)開発品の仕様と今後の開発の方向性を示したパネル。自律移動ロボットの基盤ユニットとする狙い。(写真:日経エレクトロニクス)

 ギアで減速することなく所望の回転速度を得られるDDMと、タイヤや駆動回路などを一体化している。工場などで自律的に移動するAGVの利用シーンは自動化ニーズによってまだまだ広がりそうで、今後、多様なユーザーが専用品を開発することになりかねない。同社は、AGVなどの汎用的な“スマート車輪"とすることを目指す(図3(b))。

 DDMベースの車輪には、いくつかの特徴がある。ギアがないために機械音が少ない。手で押すなどして移動できる。ギアがあると、移動させたくても動かないか動かすのに大きな力がいるため、本体を浮かせて移動させることが多いという。駆動回路を一体化したことで小型になる上、制御回路をシステム側のマイコンに担わせることがなくなり、設計が容易になる。

 DDMを車輪用途に使うため、回転の分解能を低くしてコストを抑えた。産業機器向けでは1回転を200万分割に位置決めできたが、今回の試作機では65万分割とした。今後、オフィスチェアーのキャスターのように、回転軸を2軸として全方位の移動を可能としたり、非接触での給電を可能にしたりする開発を進める(図3(c))。