全9031文字
PR

EV(電気自動車)をはじめとする電動化によって急拡大が見込まれるパワー半導体市場。メーカー各社は、増産投資に踏み切るとともに、新技術の開発を加速している。既存のSiではSiCやGaNに対抗できる技術やさらなる低コスト化のために大口径化を急ぐ。新型では、信頼性を確立するとともに、コスト競争力を高める技術の投入が始まった。

 パワー半導体メーカー各社は、Si(シリコン)と新型のデバイスのコストパフォーマンス向上に向けた開発を加速している(図1)。大手メーカーのほとんどは新型としてSiC(炭化ケイ素)を、一部はGaN(窒化ガリウム)を使った素子を開発中だ。新参企業は、縦型GaNやGa2O3(酸化ガリウム)などの材料に特化して開発を進めている。いずれも信頼性を確保した上で、コストを削減する狙いだ。次々世代として期待のかかるダイヤモンドの研究は大学が主体で企業では本格化していない。以下、各社の事業・開発戦略をみていく。

図1 Infineonと日本の大手は全方位、新興勢は特化
図1 Infineonと日本の大手は全方位、新興勢は特化
パワー半導体最大手のInfineonと日本のパワー半導体メーカーの製品・開発の動向。Infineonや日本の既存メーカーは、入手可能なデバイスはほぼ製品化している。〇は製品化中。△は研究開発中。×は未開発。2019年8月時点。(図:本誌)
[画像のクリックで拡大表示]

Infineon、全製品を次世代品まで

 車載向けや産業機器向けで最大手のドイツInfineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ)は、国内の大手パワー半導体メーカーからベンチマークの対象となっている。日本メーカーが比較的強いIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)市場においてもトップシェアを誇る。

 現在、製品化段階にあるパワー半導体をほとんど提供している。すなわち、高耐圧のSi-IGBTと次世代となるSiC-MOSFET、高速のSi-MOSFET(トレンチ構造で低オン抵抗化したスーパージャンクション型)と次世代の横型GaN-HEMT(高電子移動度トランジスタ)といった具合に、従来製品と新型製品をぬかりなく用意している。冷却構造やパッケージも、用途に応じて幅広く対応できるという。特定の製品を顧客に推奨することはなく、例えばEV(電気自動車)であれば電池容量が50kWh以上の車両にはSiC、それ未満にはSiが有利になるという目安を顧客に示しているとする。

 最近の大きな動きは、オーストリア・フィラッハで新たな建屋を2019年から建設し始め、300mmラインを設置することだ(図2)。2020年中に装置を導入し、2021年初めに量産を始める。車載向けを含むSi-IGBTとSi-MOSFETを需要に応じて量産する。6年間に16億ユーロの設備投資を計画している。

図2 300mm新工場が2021年稼働、SiCやGaNも
図2 300mm新工場が2021年稼働、SiCやGaNも
パワー半導体最大手のInfineonは、Si、SiC、GaNの製品を用意する。Siパワー半導体では低コスト化を進めるため、オーストリアに300mmラインを備える新工場を新設する(左の写真)。2021年に稼働し、2023年のフル生産を目指す。既存のドイツ・ドレスデンにある300mm工場も継続して稼働させる。右の写真は横型GaNデバイスとGaNドライバーを搭載した評価ボード。(写真:同社)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社の300mm化は、特に200mmまでのラインが主体の国内メーカーにとっては大きな脅威だ。「200mmラインに対して大幅なコスト削減につながる。Infineonほどの売り上げ規模があれば300mm化に踏み切りやすいが、政府からの300mm化投資に対する補助金の影響も大きいと思う」(国内パワー半導体メーカーの事業責任者)。

SiCは大口径化とスライス技術で安く

 Infineonは、既存のドイツ・ドレスデン工場でSiデバイスの300mm化を終えており、同時に新型の大口径化も進めている。

 SiCでは現状で最大口径となる150mm(6インチ)ウエハーへの移行を完了した。大口径化による低コスト手法に加え、同社独自の低コスト化手法も取り入れている。350µm厚といったSiCウエハーを2枚にスライスし、ウエハー単価を低減する。調達量の拡大にもつながる。2018年に買収を発表したドイツSiltectraの「Cold Split」技術を使う。ウエハー中央付近に薄い改質層をレーザー照射によって設けてはく離する。

 なおSiCウエハーは、米Creeから長期契約によって確保している。同社のウエハーは、既存の昇華法による結晶成長技術に基づく。同社以外からも調達している。なおSiとSiCの両方を同一ラインで製造できるようにしており、双方の需要に柔軟に対応できる。

 横型GaNでは、自らウエハーから量産する意向だ。当初は、パナソニックからデバイスの供給を受けてパッケージングすると表明していた。200mm化も進める。車載向けには提供しておらず、産業機器向けである。今後、車載向けに展開する可能性はあるが現時点では決定していないという。車載向けに製品化する場合、他社の考えと同様に充電器のDC-DC変換器への搭載が考えられる。

 縦型GaNの研究にも着手している。Ga2O3とダイヤモンドについては、他の研究機関と協力して評価・議論をしている段階だ。

三菱、2022年度に売上高2000億円へ

 三菱電機は、IGBT市場ではInfineonに次いで2位、国内なら最大手である。「巨人のInfineonに対して伍していける唯一の国内メーカー」(国内の競合メーカー)。パワー半導体を含む「パワーデバイス事業」で2022年度に売上高2000億円、営業利益率10%を目標に掲げる。同社の売上高目標は、市場全体の伸びを上回る年間平均成長率10%で達成する。インバーター搭載家電など、強い民生機器市場で圧倒的なトップを狙う。

 同社は、比較的大電力のパワー半導体であるSi-IGBTとSiCを販売中で、小電力のSi-MOSFET製品は持っていない。Si-IGBTでは次世代の第8世代へと進化させていく(図3)。ダイオードを同一チップに集積して高温動作を可能にするRC(Reverse Conducting)-IGBTについても次世代品を開発する。これら次世代品では、主には電流を流す層を、耐圧を維持しつつ薄くして、オン抵抗を低減していく。300mm化については、高い生産性が大きな競争力になるとみて要素開発を進めていく予定とする。

図3 Si-IGBTの進化を継続
図3 Si-IGBTの進化を継続
三菱電機は、IGBTを継続して進化させる。第8世代、さらにその次の世代の開発も進めている。耐放熱性に優れるRC-IGBTの次世代品も開発中だ。(図:同社)
[画像のクリックで拡大表示]

 SiCでは、電車やエアコンなどで量産実績はあるものの、コストが課題となって当初の見込みほどは伸びていないという。それでもEVなどの自動車市場での採用が進んで低コスト化が進むと2025年ごろには本格的な市場拡大が見込めるとみて、この頃までには他社と差異化した製品を開発する意向だ。

 GaNについては、横型と縦型のいずれも製品化していない。GaNデバイスは、携帯電話基地局などに使う高周波パワーアンプ向けにのみ開発中である。