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 「あれ、チップがない……」

 米テスラ(Tesla)の電気自動車(EV)「モデル3」の分解を進めていたメンバーが声を上げた(分解記事の一覧)。その手には、運転支援機能「オートパイロット(Autopilot)」の中核センサーである3眼カメラがあった(図1、2)。

図1 モデル3の3眼カメラ
図1 モデル3の3眼カメラ
最長視認距離250mの長距離用カメラと、同150mの中距離用カメラ、同60mで視野角120度の広角カメラから成る。(撮影:日経Automotive)
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図2 3眼カメラはルームミラー裏に配置
図2 3眼カメラはルームミラー裏に配置
モデル3の分解の様子。カメラのカバーの中には、GPSのアンテナもあった。(撮影:日経Automotive)
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 Teslaは、前方監視カメラモジュールの常識を破った。モデル3のカメラには、3組のCMOSイメージセンサーとレンズしかなかったのである。

日産やBMWはMobileyeを採用

 車両前方の状況を把握するカメラは通常、CMOSイメージセンサーと画像処理チップを1つのモジュールに内蔵している。CMOSイメージセンサーで取得したデータをモジュール内のチップで処理し、分析した結果のみを外部のADAS(先進運転支援システム)用ECU(電子制御ユニット)に伝える。

 Teslaの他に、3眼カメラを積極的に採用するのが日産自動車とドイツBMWである。両社が採用する3眼カメラモジュールはドイツZF製で、3個のCMOSイメージセンサーと1個の画像処理チップを内蔵する(図3、4)。画像処理チップはイスラエル・モービルアイ(Mobileye)の最新版「EyeQ4」だ。

図3 3眼カメラを搭載する日産「スカイライン」
図3 3眼カメラを搭載する日産「スカイライン」
高速道路上の同一車線内での手放し運転を可能にする運転支援機能「プロパイロット2.0」を搭載する。(撮影:日経Automotive)
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図4 日産やBMWが採用する3眼カメラ
図4 日産やBMWが採用する3眼カメラ
ZFが量産する。(撮影:日経Automotive)
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 車載向けの3眼カメラを量産している部品メーカーは、今のところZF以外にない。普通に考えれば、TeslaもMobileyeのEyeQ4を内蔵したカメラを選ぶことになる。だが、TeslaとMobileye間には遺恨が存在する。

 両社は2016年に提携を解消しているのだ。それまでMobileyeは、画像処理チップ「EyeQ3」をTeslaに供給していた。決裂のきっかけになったのが、2016年5月に発生したTesla「モデルS」の事故。EyeQ3を内蔵するカメラの認識性能を巡って、両社の意見が対立した。

 TeslaはMobileyeの画像処理チップの採用を再開したのか――。

 分解して確認した結果、TeslaとMobileyeは復縁していないことが分かった。さらに興味深いのが、Teslaが他社の画像処理チップを使うという代替案を採らず、次世代のカメラシステムを導入した点だ。

 冒頭の通り、Teslaの3眼カメラモジュールは画像処理チップを内蔵していない。CMOSイメージセンサーで取得したデータを直接、車載コンピューター「HW3.0」に伝達するようにしたのである(図5)。

図5 モデル3の車載コンピューター「HW3.0」
図5 モデル3の車載コンピューター「HW3.0」
ダッシュボード内の助手席側に搭載していた。(撮影:日経Automotive)
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 「将来の車載カメラのアーキテクチャー」。Teslaが実用化したような、カメラモジュールを“画像処理チップレス”にして中央の車載コンピューターで処理するシステムを、BMWのカメラ技術者はこう表現する。

 このカメラシステムの利点は、車両に搭載するカメラの数を容易に増やせることだ。CMOSイメージセンサーと同じ数の画像処理チップを用意する必要がない。カメラはCMOSイメージセンサーとレンズのみの小型モジュールになるので、搭載の自由度も高い。

 多くのカメラを車両に搭載し、1つの車載コンピューターで処理するシステムは「サテライトカメラ」などと呼ばれる。Teslaのモデル3は、3眼カメラを含めて合計9個のカメラを搭載している。センターピラーに埋め込んだ他、運転者監視用の車内カメラのデータも中央の車載コンピューターで処理する。

 Teslaを追いかけるように、BMWはMobileyeや米インテル(Intel)とサテライトカメラの共同開発を進める。Intelは、2019年1月に米ラスベガスで開催された展示会「CES 2019」で13個のカメラを搭載した試作車をブースで披露した(図6)。米ゼネラル・モーターズ(GM)もサテライトカメラの実用化に前向きだ。

図6 Intelが展示した試作車
図6 Intelが展示した試作車
Mobileyeの画像処理チップとIntelの車載コンピューターを使ったシステムを開発した。(撮影:日経Automotive)
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 部品メーカーでは例えば、ZFがサテライトカメラ向けの画像処理モジュールを2020年に量産する予定である。最大12個のカメラのデータを処理できるという。多眼カメラのクルマを巡る開発が加速してきた。