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日経メカニカルのコラム「開発の軌跡」に掲載した事例を再録しました。本記事は、日経メカニカル2003年2月号に掲載したものです。

「30点」のダメ出しをしたのは、栃木のテストコースを走る実験部隊だった。計測器やシミュレーションの分解能を超えた微妙な差を追究する職人たち。この差がクルマの「味」になる。どうしても譲れない。直しては走る、走っては直す。半年間限定の戦いが始まった。

「……」

 2001年冬、栃木にある日産自動車のテストコース上。テストドライバーの加藤博義と評価エンジニアの永井暁は顔を見合わせた。

「どうするよ、おい」

「まずいっすよね」

「これじゃなあ」

「あと半年ですよ、発売」

「うん、親父(おや)っさんを呼ぶか」

「それしかありませんね」

加藤博義
加藤博義
水野が「日産一」と認めるテストドライバー。テストドライバーの社内資格で別格となる「A-S」を持つ。(写真:栗原克己)

とにかく来てくれ

永井暁
永井暁
評価エンジニア。根っからのクルマ好き。エンジニアでありながら「A-1」のテストドライバー資格を持つ。(写真:栗原克己)
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 通信手段が発達した現在でも、面と向かって言わなくてはならないことがある。加藤はあえて用件を言わず、厚木にいる「親父っさん」こと水野和敏を栃木に呼び出した。

 「用件を言わない」わけだから、きっと大変な用件なんだろう。

「どんな話だ。聞こうじゃないか」

水野は高橋孝治以下数人を引き連れて栃木に乗り込んだ。

 加藤が口を開く。

「悪いが、問題ありだ」

 水野が座り直す。

「永井、お前から言え」と加藤。

「無駄な動きがあります」

「どこに」

「そこら中です」

「そこら中…」

「そのせいで、走りがもっさりしているように感じます」

「ハンドルを切った瞬間に気持ち良くないし、エンジンの回り方も重い」

 加藤が割り込む。

「目標から遠いのか」

「遠いな」

「落第点というわけか」

「そう、30点」

 加藤は心を鬼にして言った。

「箸にも棒にもかからない」

 高橋の顔は、みるみる青くなっていった。あと70点だ。