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日経メカニカルのコラム「開発の軌跡」に掲載した事例を再録しました。本記事は、日経メカニカル2003年3月号に掲載したものです。

試作車で30点という有り難くない評価をもらった設計陣。残り 70点分の向上を半年間で達成しなければ商品にはならない。脅す、すかす…。何でもありの対策が始まった。

越川誉章
越川誉章
「意見が対立すると、水野さんは自分で図面を引くって言い出すんですよ。主管にそんなことさせたらこっちの立場がない。必死です」と語る。(写真:栗原克己)
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 栃木の加藤博義たちにダメ出しされた設計陣。もはや落ち込んでいる暇すらない。厚木に帰るや否や、すぐさま設計の見直しに着手する。

 車体の床回りを担当する越川誉章もその1人。「あそこがダメなのか」。彼には、思い当たる部品が幾つかあった。その設計を変更するなら、それこそ一刻の猶予もない。何しろ、発売は半年後なのだから。

 越川がまず目星を付けたのが「Aバー」。サスペンションメンバーとコンプレッションロッドの根元、そして車体をAの字形に結ぶ補強材である。

 これをレース車専門の「御殿場系」で製作すると、工芸品のように見事な溶接品になる。長さ7mにも及ぶアーク溶接。まず一般の自動車部品では見当たらない長さだ。しかも、一点製作の特注品だから、突き合わせの溶接面もきれいなものだ。

できるわけねえだろ

「試作品ができましたので」

 図面と共にそれを持って追浜工場に説明に行った。30点の試作車が出来るずっと前のことである。

「これをそのまま量産していただきたいのですが」

 即、却下。

「こんなものできるわけねえだろ」

「無理ですか」

「アーク溶接なんてダメダメ。スポット溶接にしてくれ。時間がかかり過ぎて生産ラインとタイミングが合わないんだよ」

「わ、分かりました。図面を描き直して出直します」

 あまりの剣幕に、越川はあっさりと引き下がった。アーク溶接をスポット溶接に設計変更してしまったのである。それが、つまずきの原因だった。

車体を下から見上げる
車体を下から見上げる
前方(左)にAバー、後方(右)にMバーがある。日産自動車の写真を基に日経 xTECHが作成。
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