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日経ものづくりのコラム「ドキュメント」に掲載した事例を再録しました。本記事は、日経ものづくり2005年2月号に掲載したものです。

他社の競合車を抑えて「2004-2005日本カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたホンダの最上級セダン「レジェンド」。受賞の決め手は、前後と左右の車輪に伝えるトルクの配分を制御し、意のままの操舵(そうだ)を実現した「SH-AWD」だ。4代目レジェンドの開発、それは1人の男がSH-AWDの原型を生み出すところから始まったといっても過言でない。

芝端康二(写真:田中 昌)
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芝端康二(写真:田中 昌)

 「このようにして、4輪駆動車で前輪と後輪に伝達するトルクの配分比率を制御します。そうすれば、最初にご説明したように、状況に応じて直進安定性を高めたり、曲がりやすくしたりすることができるというわけです」

 「なるほどね。確かに、4輪駆動車は直進安定性に優れるけれど、進路を変えるときには応答を拒むところがあるからなぁ。あの癖を嫌がる人はいるはずだ」

 「はい。このシステムなら、その問題を解消できます。従いまして、うちとしましては…」

 「その前に、他社はどうなんだ。同じような技術の話を聞いたことがあるんだけど」

 「ええ、そこなんですが、近々商品化という噂(うわさ)もありますので、うちとしましては…」

 「ちょっと待って。その話が本当なら、うちが今さら研究する意味はないだろう。いいかい、君に与えられたテーマは『将来駆動方式』だ。他社の後追いじゃない。その名にふさわしい将来の駆動システムを考えてくれ」

 玉砕した。日産自動車から本田技術研究所に転職して1年。たった1人で進めてきた研究成果が今、バッサリと切り捨てられた。