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日経ものづくりのコラム「ドキュメント」に掲載した事例を再録しました。本記事は、日経ものづくり2005年5月号に掲載したものです。

これまでにないクルマには、新しい名前こそ相応(ふさわ)しい。新型車のコンセプトに絶対の自信を持つ齊藤政昭ら次世代高級セダン開発陣は、それまでの最高級セダン「レジェンド」に替わる機種名を検討する。しかし急転直下、レジェンドの名を受け継ぐことが決まった。

左から浅田裕介、渡辺正博(写真:栗原克己)
左から浅田裕介、渡辺正博(写真:栗原克己)
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 ブランドともいうべき機種名は検討事項のはずだった。少なくとも、齊藤政昭ら次世代高級セダンの開発陣は、そう思っていた。あの販社向けのイベントが開催されるまでは。

 あの日、ゲストを前に壇上であいさつするホンダ幹部の口を突いて出た言葉は、「レジェンドを継承する」というものだった。この瞬間、検討事項は一転、既成事実へと変わった。「今から思えば当たり前のことでした。名前を変えるという発想はそもそも、3代目レジェンドに比べて、思い切り『走り』に振って全てを一新したクルマを造りたい。その際に、レジェンドの名前から来る既成のイメージに縛られたくないという思いから生まれたもの。しかしそのクルマの市場を考えれば当然、乗り心地や静粛性といった『質』もこれまで以上に高いレベルを求められる。ブランド名を変えれば、そのしがらみから解放されるというのは甘い考え。何より、それは、レジェンドを待ち続けているお客さまに対する背信行為。そのことを改めて思い知りました」

 こう振り返る齊藤。その後、彼は不満がくすぶる開発陣を前に、レジェンドの名を受け継ぐこと、そしてその意味を説明した。当然、疑問の声や反対の声が上がる。これまでに散々議論した、SH-4駆の性能を引き出した走りとレジェンドとしてのクオリティーの両立の難しさを盾にして。