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本記事は、日経エレクトロニクス(2013年2月18日号~2013年7月8日号)に掲載したものです。

第1章:オシロスコープとは
進化の過程で3種類のオシロスコープ

 繰り返しになるが、オシロスコープは電気信号の時間的な変化をそのままディスプレイ上に波の形で表示する装置である。オシロスコープの歴史をひもとくと、実はかなり昔に開発された測定器であることが分かる。我々が把握しているところでは1934年。実に80年近く前に誕生していた。

 オシロスコープを最初に製品化したのは、米DuMont社である。ブラウン管の一種であるCRT(陰極線管)を表示部に用いて、電圧の挙動で直接電子ビームを偏向するものだった。米Tektronix社は第2次世界大戦の後、1947年に初めてトリガ機能を搭載したオシロスコープを製品化した企業である。

 このトリガ機能により、それまでは困難だった多くの電気現象が観測できるようになった。現在ではセンサを介して物理現象を正確に電気に変換できる手立てが確立され、多くのアプリケーション分野で基本測定器の一つとして基礎研究から開発の機能検証、製造検査、品質保証、メンテナンスまでのいろいろな部門で多くの技術者に使われるようになっている。

 オシロスコープの転機は1980年。この年、現在のオシロスコープの原型とも言えるデジタル・ストレージ・オシロスコープ(DSO:digital storage oscilloscope)が登場したのである。それまでの「オシロスコープ」はこのDSOの製品化をきっかけにアナログ・リアルタイム・オシロスコープ(ART:analogreal time oscilloscope)と呼ばれるようになった。ARTは入力信号を直接、ブラウン管の管面に輝線として表示するオシロスコープだ。

 ARTは、被測定対象物から信号をプローブで拾った信号を増幅して、CRTの垂直偏向電極に加えることでビームを偏向させる(図4)。管面に塗布された蛍光体にビームが当たることで発光して輝点となるが、ビームが振られることで、ビームが当たった部分が輝線として表示される。信号に電圧の変化があると縦線が生まれる。このような仕組みで、ARTは構成されていたのだ。

図4 アナログ・リアルタイム・オシロスコープ(ART)
図4 アナログ・リアルタイム・オシロスコープ(ART)
1947年に開発されて以来、長年活用されたオシロスコープである(a)。入力した電気信号で振られたビームが当たることで蛍光体に輝線として表示される(b)。
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 実は、このままだと測定結果は1次元のままの表示となってしまう。そこで、水平回路を組み込んで、信号の変化を波の形として表示できるようにした。信号に変化があると、そのままにCRTの管面上に見える形で表示される。波形表示は管面の左端からスタートするが、この水平信号のスタートの合図が、先述のトリガである。

 ARTには二つの特徴がある。まず、オシロスコープの内部処理で波形が表示できない時間を「デッドタイム」と呼ぶが、ARTはこのデッドタイムが短くリアルタイム性に優れる点である。

 もう一つが、信号の明るさで波形の頻度情報が得られる点である。例えば、映像装置やビデオ機器などの検査に使うテスト用の映像信号をオシロスコープで見ると、上下方向の情報から明るさの情報を得られるし、表示されるパケットの輝度情報から対応するテスト・パターンの面積などが分かる。もしARTで現在の映像装置やビデオ機器などを測定したとしたら瞬時に信号の良しあしや不具合のある箇所を判断することが可能だ。

 ただし、目視によって信号情報を確認するため、人間の目に見えないような非常に短い時間の現象や逆に非常にゆっくりと変化する現象などでは、測定が難しい。この他、測定結果は銀塩カメラで撮影して写真として保存する他に方法がないという短所もあった。