VESAによる標準化が進んだ結果、グラフィックスチップメーカーには、他社とどう差をつけるか、という課題が出てくる。当時、そのポイントは、コスト、性能、機能だった。速くて安いのはもちろんで、搭載するグラフィックスメモリーの容量、同時発色数の多さ、最大解像度の高さなどが主要な差別化ポイントだった。これに新たに加わったのが、グラフィックスアクセラレーター機能である。
当初のアクセラレーター機能はごく単純で、直線や長方形、だ円の描画、囲まれた領域の塗りつぶし、BitBlt程度の機能しかなかった。BitBltとはBit Block Transferの略で、グラフィックスメモリー(以下VRAM)中のある領域を別の場所にコピー/移動する機能だ。そして、拡大、縮小、変形やAND/OR/NOTなど、論理演算を実行する機能などが次第に追加されていった。
アクセラレーター機能が注目され、製品選びの主要な要因になった理由として、Windows 3.0の登場が挙げられる。文字表示だけで済むMS-DOSとは異なり、全てをグラフィックスで表示するWindows 3.0を使う際、アクセラレーター機能を持たないグラフィックスボードの環境だと、CPUへの負荷が大きくなり、ユーザーはかなりのストレスを感じた。
例えば直線を描画するだけでも、それなりにCPU処理が必要となる(図1)。直線の傾きが1を超えているかどうかで処理を切り替えるかをCPUが判断する。次に座標を計算して順次点が表示されるようにVRAMを書き換えるといった具合だ。グラフィックスアクセラレーターを使うと、プログラムは始点と終点、色を指定するだけで済む。傾きの判断を含めてアクセラレーターが全部処理してくれる。
塗りつぶしはもっと負荷が大きい(図2)。一般には起点と境界色、それと塗りつぶす色を指定して塗りつぶす。VRAMからデータをメモリーに取り出し、条件に合致した個所を塗りつぶす。VRAMとメモリーの間でバスを介してデータをやり取りせねばならず、時間もかかかる。アクセラレーターを使うと、これを全部VRAMの中だけで処理してくれるので、かなり高速化できる。境界色の判断などもCPUよりずっと高速にでき、CPUの処理で塗りつぶす場合とは比較にならない。
こうした高速化機能は、当然Windowsのドライバー経由で利用されるため、VESAの制定以前に問題になったような互換性の問題は発生しない。