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課題はコスト

 しかし、ステップATにも課題はある。遊星歯車機構は複雑で精密なため、加工コストがかかり、容積は大きく質量も増えることになる。また歯車とクラッチが増えることで駆動損失も大きくなる。内部では歯車ユニットの潤滑や冷却だけでなく流体クラッチのトルクコンバーターや変速機構の作動油としてオイルを使用しているため、油量は多く、高い油圧を必要とするため、油圧損失も大きい。

 湿式多板クラッチを多用する構造も、オイルによる引き摺り抵抗など損失を増やす要因であるが、スムーズな作動と冷却を考えると同クラッチが最適の選択となる。かつてはクラッチの摩擦材も柔らかく、厚みのあるものとなっていたが、最近は摩擦に強い紙をベースとした薄いライニングにすることで耐久性と容積効率を高めている。

 そのライニング自体の引き摺り抵抗は軽減している。従来ワン・ウェイ・クラッチで変速時のショックを軽減していた部分は、多板クラッチへの油圧制御をリニア・ソレノイド・バルブにより高度化することなどで、ワン・ウェイ・クラッチを廃止して効率を高めている。

 また、すべての締結機構を多板クラッチにするのではなく、噛み合い式のドグクラッチも併用することにより、小型軽量化と引き摺り抵抗の軽減を図っている多段ATもある。

 歯車ユニットの複雑化については遊星歯車機構の進化も著しい。遊星キャリアのダブルピニオン化や、中心のサンギアを延長して2基の遊星歯車機構をピニオンギアで連結させるラビニヨ列といった複雑な構造の採用によって、小型軽量化を図るATも登場してきた(図3、4)

図3 ドイツZF社のFF用横置き9速AT
図3 ドイツZF社のFF用横置き9速AT
機械式時計のような緻密な構造の横置き9速AT。遊星歯車機構は三つだが、後端の遊星歯車機構は、リングギアの外周にさらにプラネタリーキャリア(ピニオンギア)を備えた内外二重の遊星歯車構造となっており、四つ目の遊星歯車機構としての機能も併せ持つ。クラッチの引き摺り抵抗を削減するため中心のシャフトにドグクラッチ(噛み合い型クラッチ)を二つ使用している。なお、図ではトルクコンバーターの内部は省略されているが、実際にはトルクコンバーター本体やロック・アップ・クラッチなどが組み込まれている。
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図4 トヨタ自動車「レクサスLS460」などに搭載されたアイシン・エィ・ダブリュ製8速AT
図4 トヨタ自動車「レクサスLS460」などに搭載されたアイシン・エィ・ダブリュ製8速AT
遊星歯車機構を前後にまとめている。前はダブルピニオン式、後ろ側はラビニヨ式を採用することで、実質遊星歯車機構を4組相当備え、8速を実現している。
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 通常の遊星歯車機構は、中心のサンギア、サンギアの周りに複数配置するピニオンギア、ピニオンギアの外周にリングギアを配置する。ZF社の9速ATでは、遊星歯車機構のリングギアの外周にさらに別のピニオンギアを複数配置する内外二重の遊星歯車構造になる。こうして損失の削減を図り、多段化によるデメリットを打ち消して燃費性能を高めている。