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本記事は、日経アーキテクチュアの2017年11月23日号に掲載した「フォーカス住宅」の記事を再編集したものです。

狭小な都心の分譲地で、周囲に住宅が近接する中に立つ木造2階建て住宅だ。隣家と隣家の“隙間”など周辺で開かれた空間に向けて、開口部を斜め向きに設定。限られた敷地条件にあって、明るく開放的な室内空間をつくり出している。

2階の居間。南側の建物出隅を切り取るように大きな窓を斜め向きに設けている(写真の右手)。この窓は分譲地に隣接する既存住宅の庭に面し、その緑を借景に生かしている(写真:安川 千秋)
2階の居間。南側の建物出隅を切り取るように大きな窓を斜め向きに設けている(写真の右手)。この窓は分譲地に隣接する既存住宅の庭に面し、その緑を借景に生かしている(写真:安川 千秋)
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 都心にある約18坪の旗ざお敷地に立つ木造2階建て住宅だ。建て主夫妻と子ども3人の5人家族が暮らす。隣家が近接するこの敷地はもともと、周辺の数軒分とともに分譲されたものだ。前面道路と直交する引き込み道路の一番奥に、この住宅がある。その外観は、主だった開口部を外壁に対して斜めになる角度で設けている点が特徴だ〔写真1〕。

〔写真1〕玄関も斜め向きに設定
〔写真1〕玄関も斜め向きに設定
アプローチから見た外観。1階の玄関もアプローチに対して斜め方向に設けている。ドアを開け放していても、内部をうかがうことはできない(写真:安川 千秋)
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 内部は、1階が子どもたちと夫婦それぞれの寝室、2階は丸ごとワンルームの居間だ。2階では上方空間の大部分にFRP(繊維強化プラスチック)製のグレーチングを施工し、その上をロフトとして活用。天窓から得る外光がグレーチングを透過して2階の居間にも届く。

既存隣家の広い庭を借景

 2階の居間は、隣家と近接する周辺環境を忘れさせる明るさと開放感を感じる。建て主によれば、昼間は照明を使う必要がほとんどないという。こうした室内環境で効果を発揮しているのは、天窓からの光に加えて、開口部の設け方だ。

 この住宅の設計者は、ATELIER H.M.C.(東京都千代田区)を主宰する森山ちはる氏だ。狭小なうえに同時期に分譲された隣地や既存の隣家に囲まれた敷地を最も効率的に使うために、建物の平面形状の選択肢は限られる。そこで森山氏は開口部の“向き”に着目した。

 「窓が隣家の真正面に向き合わないように、建物同士の隙間や既存住宅の広い庭に面する方向に、角度を付けて設けた」。森山氏はこう説明する。森山氏が目指したのは、外部環境と心地よくつながったり、適切に遮断したりすることで、限られた空間で最大限の居心地の良さを実現することだった。

 そうした工夫が最も顕著に分かるのが、2階の居間だ。外壁の出隅を切り取ったような窓や、出窓形式で外壁から張り出した窓は、いずれも開口面が外壁に対して斜角方向に向いている。例えば南側の出隅にある最も大きな窓は、隣接する既存住宅の広い庭に面しており、その緑を借景として楽しめる。窓台に当たる箇所は収納を兼ねた腰掛けスペースになっており、冬場などは日差しの暖かさが楽しめる“特等席”だ。