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本記事は、日経アーキテクチュアの2018年2月8日号に掲載した「フォーカス住宅」の記事を再編集したものです。

谷地形にあって、斜面が接する南側壁面は上り勾配を付けて大開口を配置。建物東西軸の高低差を利用した明かり取りも室内の明るさに一役買う。内部はスキップフロア形式で空間に連続性を持たせた。

 神奈川県の三浦半島で緑豊かな低山が連なる一角、若い夫婦が生まれたばかりの乳児と暮らす木造住宅だ。1階に寝室や、書斎にも使う土間、浴室などがあり、上層階にリビング・ダイニング・キッチン(LDK)とゲストルームがある。敷地の南側は前面道路を挟んで、自然林が密生する尾根の急斜面が迫る。日当たりが心配になる条件に対して、設計者の田辺雄之氏は、デザインの工夫で居心地の良い空間を生み出した。

 家族が集うLDKは、建物東側の2階に配置。さらに南側の外壁は、尾根の斜面と逆の角度で勾配を付けたうえで、高い位置に大きな開口部を設けた。この開口部は天窓のような機能を果たし、太陽の高度が上がった時間帯でも日差しがたっぷりと室内に降り注ぐ〔写真1、2〕。

〔写真1〕明るい2階のLDK
〔写真1〕明るい2階のLDK
建物東側2階にあるLDK。山が迫る南側は壁に勾配を付けて大開口を設けた。建物東西の高低差を利用して、室内西側の壁上部には明かり取りの小開口(写真:安川 千秋)
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〔写真2〕建物の東西軸に高低差を設けた
〔写真2〕建物の東西軸に高低差を設けた
南側から見た外観。東西軸に対して、建物を断面で上下にずらしたようなデザインだ。写真右手の高い方が2階LDKがある東側。建物東西の断面形状は、外壁・屋根の勾配・寸法が同じ。LDKの西壁上部にある小開口は、この高低差を利用して設けている(写真:安川 千秋)
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 建て主夫妻の「天井の高い空間でくつろぎたい」という要望を踏まえて、LDKは最高高さが約4mもある。耐力壁を建物外周に配しており、室内の断面形状は外観のそれと一致する〔写真3、4〕。「南側の開口部を斜めに設置することで、室内からの視線は向かいの斜面を見上げる形になる。採光上の効果に加えて、開口部が切り取る山の緑やその上の空の眺めも楽しめる」。田辺氏はこう説明する。

〔写真3〕室内の断面形も外観と同じ
〔写真3〕室内の断面形も外観と同じ
建物外周に耐力壁を配し、屋根面の片持ち梁には強度の高い合わせ梁を用いて架構を保持している。建物の外観形状をいっぱいに使って、大きなワンルームのLDKをつくり上げた(写真:安川 千秋)
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〔写真4〕南方向に広がる室内
〔写真4〕南方向に広がる室内
北側から南側に広がるLDK室内。大開口は山の緑と空の青を見上げる方向が正面(写真:安川 千秋)
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 もう1つの特徴は「高低差」だ。東西軸に対して、あたかも建物を断面で上下方向にずらしたような形状を採用している。建物西側の最高高さは東側より低い。この“ずれ”による屋根の高低差を生かして、LDKの西壁上部に、明かり取りの機能を果たす小開口を並べている。