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本記事は、日経アーキテクチュアの2016年5月12日号に掲載した「フォーカス住宅」の記事を再編集したものです。

プライバシーを守り、中庭に開くコートハウスは閉鎖的な印象になりがちだ。地域に根付いて暮らすには、近隣との関係も無視できない。視線を遮りつつ外部とつなぐため、屋根の高さに着目。内部空間にも変化を与えた。

ダイニングから中庭方向を見る。天井は写真左から右に向かって徐々に低くなっている。中庭を囲む壁は建具の高さまでスギ板張りにした(写真:吉田 誠)
ダイニングから中庭方向を見る。天井は写真左から右に向かって徐々に低くなっている。中庭を囲む壁は建具の高さまでスギ板張りにした(写真:吉田 誠)
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 建て主は単身の女性だ。夫は他界し、2人の子どもも独立した。今は小売店の経営者として忙しく暮らしており、帰宅が深夜に及ぶことも多い。「周りの目を気にすることなく、安心して過ごせる家が欲しかった」と、店舗の近くに土地を購入した。

 設計は、親族である高安重一氏が主宰するアーキテクチャー・ラボ(東京都台東区)に依頼。留守を気付かれにくい防犯性と、カーテンなしでも過ごせる開放感の両立を要望した。

 外周を閉じて中庭に開くコートハウス形式の建物なら、プライバシーと開放感は両立できる〔写真1〕。しかし、敷地周辺は住宅と田畑が混在する田園地帯だ。「閉鎖的な外観は風景にそぐわない」と高安氏は考えた。

〔写真1〕居室と同レベルの中庭デッキ
〔写真1〕居室と同レベルの中庭デッキ
広く日当たりのいい中庭。デッキは1階床と同レベルで、内外につながりが感じられる。写真手前、南側にシマトネリコを植えた(写真:吉田 誠)
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 地元の店舗で働く建て主にとって、近隣との関係を断って閉じこもっているように見られるのも望ましくない。そこで「道路側の屋根を低く抑え、近隣から見ても中庭があることが分かり、家の中の気配が伝わるように考えた」と高安氏は語る。