東京の銀座という地名が付くエリアの南端。すぐ脇には首都高速道路の高架が走り、その向こうは汐留の再開発エリアだ。そこに、丸窓が付いた白い箱を寄せ集めたようなこの建物は立っている。
設計したのは黒川紀章。竣工した時点でまだ37歳だった。大阪万博で設計したタカラ・ビューティリオンを見て、不動産事業を展開する中銀グループの社長が、このビルの話を持ちかけたのだという。
取材で訪れた日には、建物の前に海外からの旅行客とおぼしき2人がカメラを持って立っていた。なかにはホテルと間違えて入ってきてしまう人もいて困ると聞いたことがある。
確かにそんな外観にも見えるが、この建物はホテルではない。かと言って普通のマンションとも違う。竣工当初、この建物はアトリエになったり、都心のセカンドハウスになったりする「ビジネス・マンション」と説明されていた。
それぞれの箱は幅が2.5m、奥行きが4m、高さが2.5mという大きさ。狭いけれども、その中にはバス・トイレのユニットとベッドが付き、壁面には収納式のデスクや電話、オーディオ装置、電卓など備え付けられていた。1人の人間が生活し、活動するための機能がコンパクトに詰め込まれている。