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 2018年6月27日、デジタルテクノロジーの専門展示会「Cloud Days札幌 2018」(札幌コンベンションセンター)では、人工知能(AI)でカーリングの最善手を占う“カーリングAI”をテーマとした対談が開かれた。日経BP社技術メディア局の中村建助局長補佐とカーリングAIの生みの親である北海道大学大学院情報科学研究科の山本雅人教授の2人が平昌オリンピックの日本女子カーリングの結果分析、さらにはスポーツとAIの関係まで、広く語りあった。

北海道大学大学院情報科学研究科の山本雅人教授(右)と日経BP社技術メディア局の中村建助局長補佐(左)
北海道大学大学院情報科学研究科の山本雅人教授(右)と日経BP社技術メディア局の中村建助局長補佐(左)
写真:浅野 久男
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 「深層学習(ディープラーニング)や機械学習の発展でAIは現在第3次ブームを迎えているが、スポーツ分野での興味深い適用例にカーリングAIがある」という中村局長補佐の説明から対談はスタート。自らもプレーヤーだという山本教授がカーリングAIに取り組んだきっかけや能力を紹介した。

 山本教授がカーリングにAIを持ち込もうと考えたのは「先攻と後攻で交互にプレー」「相手のプレー中は自分のチームは何もできない」「利害が相反する」「先読みが必要」といった他にはない特徴を持つスポーツだからだ。囲碁と似たような面があるため、ゲームを学習してプレーするAIと相性が良いという。

 分析には電気通信大学で開発された「デジタルカーリング」という物理シミュレーターを用い、投球方向やウエート、ターン方向を決めてシミュレーションを繰り返し、AIが学習。ある局面における盤面でのストーンの配置から、エンド終了時にどちらが何点を取る確率が高いかなどを予測するほか、取り得る最善手も導ける。まだ盤面のコンディションなど現実を完全には再現できていないが、ストーンが一定速度を超える条件下では人間がイメージするより正確な答えを導き出せるという。

 実際のゲームにカーリングAIを適用したらどういったことが分かるのか、という中村局長補佐の質問に対して山本教授が示したのは、平昌オリンピックで銅メダルを獲得したカーリング女子日本チームの試合分析だ。

 当初の狙いよりもやや手前に止まった日本側の投球は手痛いミスと捉えた観戦者も多かった英国との最終エンドの攻防も、カーリングAIによると全く見え方が異なる。AIがはじき出した勝率は74%で、ミスの影響はそれほど大きくないと分析していた。考えられる最善手の83%よりは低かったものの、直前の日本チームの投球が絶妙で、一気に勝率が高まっていた。逆に英国の勝率は26%で、2個のストーンを一度にはじき出そうとした最終ショットで日本に逆転するのは難しかったと分析した。

 中村局長補佐からはプレーヤーがゲームで使える可能性についても質問が出たが、「試合では選手の判断を補助する機器を使用できないため、選手がAIの分析結果をプレー中に活用するのは難しい」(山本教授)という。ただし、試合後の振り返りに活用することは可能だ。AIの分析を示すことで、テレビなどで試合観戦している視聴者に新たな試合の見方を伝えられる。

 中村局長補佐は、カーリング以外にも多くのスポーツでAIやIoT(インターネット・オブ・シングス)の活用が進み、様々なデータを測定して選手やチームの強化につなげる「スポーツテック」の広がりを指摘。具体的には野球やバドミントン、体操の分野での事例を紹介した。

 さらに中村局長補佐は、キユーピーや東京無線協同組合、東日本旅客鉄道といった企業でのAI活用事例を示した後、今後の見通しを山本教授に聞いた。山本教授は「ディープラーニングは画像認識の能力が高い。既に様々な場所でカメラによる動画撮影が広がっており、撮影した画像をAIで分析する事例が増えるだろう」とした。