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 ICの設計技術などに焦点を合わせた欧州の国際学会「DATE:Design, Automation & Test in Europe」。3月19日~23日にドイツ・ドレスデンで開催されたDATE 18では、採り上げられる話題の大きな変化を実感させた。これまでIC設計技術を扱う学会のテーマは、基本的に半導体微細化への対応だった。が、Mooreの法則の終焉が目前に迫り、微細化に頼らないでICを進化させる量子コンピューティングの注目度が急上昇。量子コンピューティング向け設計技術のR&Dが表舞台に登場した。

セッション2.1「Executive Session:How Electronics May Change Our Lives, and the World」では、次世代エレクトロニクスを担う4つの技術が紹介された。そのうちの1つが、量子コンピューティングだった。日経 xTECHが撮影。スクリーンはセッションチアーを務めた米Synopsys社のAntun Domic氏(壇上の右手)が見せたスライド
セッション2.1「Executive Session:How Electronics May Change Our Lives, and the World」では、次世代エレクトロニクスを担う4つの技術が紹介された。そのうちの1つが、量子コンピューティングだった。日経 xTECHが撮影。スクリーンはセッションチアーを務めた米Synopsys社のAntun Domic氏(壇上の右手)が見せたスライド
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 これまで約半世紀、ICの進化は基本的に微細化がけん引してきた。その微細化による恩恵を享受するために、IC設計技術は進展してきたと言える。進展の方向は主に2つ。回路の大規模化対応と、顕在化する物理現象への対応である。前者は高い抽象度での設計、例えば、C言語やC++でICを設計する技術。後者は、例えば、微細でないときには無視できた寄生容量や寄生抵抗を考慮するための設計技術である。

 進展を続けてきた設計技術が対象とするICは基本的に同じ姿だった。例えばマイクロプロセッサーやマイクロコントローラー(マイコン)といった論理ICは、論理ゲートで構成されている。論理ゲートは「0」と「1」の値を取る論理ビットを演算する回路である(以下、この回路で実現する演算を従来型コンピューティングと呼ぶ)。

 一方、量子コンピューティング(量子コンピューター)では量子ゲートと呼ばれる回路が、量子ビットを演算する。量子ビットには、「重ね合わせ」(観測されるまで0でも1でもない重ね合わせの状態になっていること」と「量子もつれ」(ある量子ビットの状態が他の量子ビットの状態に影響を与える)いう性質(量子的な性質)がある。この量子的な性質により、少ない量子ビット数で並列度の極めて高い演算が可能になることが知られている(参考:米IBM社のページ)。微細化の終焉で、従来型コンピューティングでは演算に使う論理ビット数の増加や高速化が頭打ちになる中で、量子コンピューティングが注目を集める理由が、この「少ない量子ビット数で並列度の極めて高い演算が可能なこと」である。

注:量子コンピューターの定義には諸説あるが、現在、本文にあるような量子ゲートを組み合わせた方式の汎用的な量子コンピューター(量子ゲート式量子コンピューター)と、組み合わせ問題向け専用の量子コンピューター(量子アニーリング式量子コンピューター)の2種類に分けることが多い。米D-Wave社をはじめとして商用化で先行しているのは後者の量子アニーリング式量子コンピューター。量子アニーリング式の量子コンピューターでは、解きたい問題をイジングモデルに落とし込めば、あとはコンピューターが最適解(またはそれに近い解)を自動的に算出する。一方、現在、従来型コンピューティングの設計技術を開発してきた研究者が取り組むことが多いのは、前者である。